時載りリンネ! 1 (1) (角川スニーカー文庫 203-1)

【時載りリンネ! 1】 清野静/古夏からす 角川スニーカー文庫



MARVELOUS!!


やはっ♪ 参った。まいりました。
これは控え目に言っても名作。ドキドキとワクワクが詰まった夢のような本でした。こういうのに出くわすから、本読むのって止められないんですよ。

特に前半部分は素晴らしかった。敢えてライトノベルの主流から外れて、主人公やヒロイン、彼ら二人を取り巻く仲間たちを『小学生』にしたことこそが、この物語の肝なんじゃないだろうか。
時載りという特殊な一族の女の子がヒロインで、主人公との二人の周りには普通とはちょっと違う不思議がたくさん転がっているんだけど、でもそういうのは彼らには慣れ親しんだ日常の延長にあるもので、ちょいとしたドキドキとワクワクを生んでくれるエッセンスに過ぎないわけだ。
ふとしたことから出会った謎に向かって、元気一杯に走っていくヒロイン、リンネ。そんな彼女のあとをヒョイヒョイとついていく久高くん。そして、ちょっと変な仲間たちみんなで挑む少年少女探偵団。
そして、事件を追う先で生まれる、新しい友達との出会い。
とはいえ、彼らはまだ子供。日が暮れたら家に帰らなきゃならないわけで、遅くなればお母さんに叱られてしまうのです。頻繁に、それぞれの家族のエピソードが挟まれるのがまた、いいんだ。帰るのが遅くなって怒られたり、リンネの偏食にお母さんが頭を悩ませてたりという、どちらかといえば日常のなんでもないやり取り。でも、そのエピソードが当たり前みたいに挟まれることで、子供らしい夏休みの大冒険、という日差しや風の匂い、雲の流れる姿まで脳裏に浮かぶような鮮明なイメージが、行間から湧き立つように伝わってくる。


わくわくする大冒険がしてみたいな。
物語みたいな。
悪党に狙われて困っている女の子を
颯爽と救うような話が理想ね。
日常の中のふとしたできごとから幕を開けて、
しだいに謎が膨らんでいく不思議な展開、
中盤にはミステリーあり、活劇あり、
友情ありの総天然色の大冒険よ。
お待ちかねのクライマックスには悪党をやっつけて、
もちろん最後には綺麗な大団円を迎えるの。
すべてが終わったあと、
前よりも少しだけ
世界が輝いて見えたら素敵よね!


まさしく、このリンネの台詞がすべてを示しているような、素敵な素敵な物語。

それにしても、この品の良い文章はなんなんだろう。格調高い、というんだろうか。ただそう書くと敷居が高そうだけど、そういうのとは違うんですよね。小難しい偉そうな文章を堅苦しいスーツに身を包んだ頑固そうな表情の老紳士とするなら、こちとら古くもしっとりと景色に溶け込むような品の良い日本家屋の縁側で、ニコニコと優しげに微笑んでいるきっちりとした身形の着物に身を包んだおばあさん、みたいな格調の高さ、品格のよさ、という感じだろうか。
子供たちが元気一杯に走り回っている話のはずなのに、語り口や言い回しが清廉に整っているため、乱暴な感じはまったくしない。かといってリンネたちの溌剌さは損なわれず、彼らは伸び伸びと作中一杯を駆け回ってる。
まったく、素晴らしい以外に上手く言葉が生まれてこない自分がもどかしいくらい。
時々不意に差し込まれる地の文の文章。この言葉の選択、配置のセンスはいったい、なんなんだろう。嫉妬すら感じる、この感性。
たとえば、上記したリンネの台詞が二度目に登場した際の、ぽつりと差し込まれた語り部の言葉を眼にしたときの衝撃は、この作品を思い出すたびに脳裏をよぎることになるでしょう。
これに限らず、読んでてハッとさせるような言い回しなんかに、度々行き会ってしまい、これ読んでた時間が午前二時前後と、かなり深夜でもう眠たくて仕方なかったのに、ぼやけそうになる頭の中の霧がその度に風に吹き飛ばされたみたいに晴れてしまって、お陰で寝不足ですよ、まったく。
この文章のセンスが一番色濃く出てるのは、おじいさんからの手紙全般じゃないでしょうか。あの手紙の語り口は、筆舌しがたい味わいがあって、なんかもう読んでてウットリしてしまいました。あんな手紙なら、自分なら何度も読み返しますよ。あれこそ、手紙ってやつだわ。いや、内容的には特別なものは何もないんですけど、語り口が素晴らしくて、もう。

この作品の惜しむべきところは、後半かなあ。ライトノベルの原則に縛られてしまったのか、ちょっとしたバトル展開に。いやいや、これだって平均してみればAクラス間違いなしの実に面白く文句のない内容だったのですけど、敢えて敢えて言わせてもらえるのなら、前半の雰囲気からするとかすかに違和感が出てしまったかなあ、と。
でも、これもまた大冒険なんですよね。うんうん、理不尽な大人に立ち向かう少年少女探偵団。定型からは何も外れておらず何も間違ってない。なんか感想書くためにグルグル考えているうちに、そう思えるようになってきたぞ、脳内でそういう化学反応が(笑

まさしくリンネの宣言通り、

すべてが終わったあと、
前よりも少しだけ
世界が輝いて見えたわけですから。

ただひたすらに、素敵な物語、ということで。

実に、
MARVELOUS!!
でございました。

しかし、この終幕の締め方も、身震いするほど余韻が残るなあ。
素晴らしい。