ミステリクロノ (電撃文庫 (1471))

【ミステリクロノ】 久住四季/甘塩コメコ 電撃文庫


【トリックスターズ】シリーズの久住四季/甘塩コメココンビの新シリーズ。いやはや、またトリックスターズとは一味違う顔を見せてきましたね。こういうのを目の当たりにすると、やっぱり作家ってのは、一つのシリーズだけに拘泥するのではなく、いくつか違う話を書いてみるのがいいんじゃないかと思ってしまいます。
この【ミステリクロノ】は、同じミステリでありながらも、どちらかというと【トリックスターズ】よりも人間同士の関係の構築、内面の繋がりや衝突に主体を置いているようなつくりで、これがなかなか巧みで面白かったです。
この著者は、もっとキャラクターを舞台装置として扱うように徹してる人だと思ってたんですけど、あくまでそれは【トリックスターズ】というシリーズにおける括りでしかなかったようで。
具体的に表現すると、トリックスターズシリーズのキャラって、文中では区別がつくし誰が誰かよく覚えてるにも関わらず、ビジュアルデザインについては何度イラストで見ても顔を覚えられなかったんですよね。それこそ、先生ですら。
それが、ミステリクロノだと。慧や夕凪、真里亜、武臣や、十和子と、作中に登場して挿絵にデザインがあったキャラ、全員パッと顔が浮かぶ。キャラの印象が強いんですよね。

主人公の遥海慧。クールでひねてて食えない性格をしてるくせに、一皮剥けば熱い心と真っ直ぐな気持ちを胸に温めてて、人として正しく在りたいと願ってる。他の人はどう読むかわかんないけど、私はこの主人公、好きですわ。自分の嫌な部分とか弱い部分、負の側面に気付きながら、拗ねないで、ちゃんと受け止めてるところとか、恥じらいをちゃんと持ってるところ。自己完結せず、人から見て、特にまだ精神的に穢れを持たず純真な真里亜にたいして、恥ずかしいことをしたくないと思ってるところとか。
とても好感持てるんですけどね。
あと、幼馴染の親友との気の置けない関係を大事にしてるところとか。
この慧と武臣。男同士の幼馴染という距離感がとてもいい具合に出てて、すっごい好き。ここに、夕凪が加わることで、舞台となる町がちょっと田舎なことも相まって、郷愁を覚えるような独特の男女三人組の空気が醸成されてるんですよね。
ああ、もうこの三人、いいわ。
さらに、ここに真里亜という精神年齢が幼児レベルの自称天使という少女が関わる事で、保護者三人組と不思議な被保護者の交流や、信頼関係を築いていく、みたいな話にもなってるし。
真里亜のキャラも独特で良い。単純に精神的に幼い、というのではなく元々天使だから知識はあるものの人間として誕生したばかり、というところが肝なんだろうか。我慢とかを知らないだけで、我が侭というのとは少し違うし、懐くと素直に言うこと聞くし。インプティング、という言葉が作中に出てくるけど、落ち着かない小鳥かワンコを見てるみたいで、妙に可愛くてしかたないのだ、これが。
別に真里亜が女の子でなくて性別が男の子であっても、この可愛さは変わんなかったかもしれない。いや、それは言いすぎか。でも、慧と異性としての関係や、その発展性は全くといっていいほど感じなかったしなあ。
そうした側面なら、夕凪の方が圧倒的に存在感があったし。

いやま、なんにせよ面白かった。話の展開からして、明らかに長編を目論んでいるような作りなので、しばらくトリックは脇に置くか平行して続けていく事になるのだろうか。
自分としては、トリックよりこっちの方が続きが楽しみかと存じます。