世界平和は一家団欒のあとに 3 (3) (電撃文庫 は 9-3)

【世界平和は一家団欒のあとに 3.父、帰る】 橋本和也/さめだ小判  電撃文庫



前作で感じた、この作者が大確変に入ったという感触は、どうやら勘違いではなかったようで、これならあとこのシリーズが何作続いても、新しい作品を手掛けても、間違いなくどれも面白くなるわ。
それぐらい、揺るがぬ土台の強靭さを強烈に感じさせられた第三作。

異世界に召喚され、魔王を倒した元勇者という経歴を持つ経営コンサルタントのオヤジ殿の帰還と、かつて父親が救い、お姫様だった母親の故郷である異世界から現れた二人の旧友だという年上の女性の出現。

父親と息子の複雑な関係と、少年のほろ苦い初恋という要素をこれでもかとぶちこんだ、今回はまさに真っ向から青春! って感じの話だったなあ。これにちゃんと、世界の命運という要素を短絡的に矮小化せずに基幹部分に組み込んでるのは、正直すごいと思う。世界の命運と個人の事情という本来なら比べるべくもないものが等価にリンクされてしまうものをセカイ系なんて括りでまとめるようなケースもあるけど、これはそれらとはどっかが明確に違うんですよね。
まあその辺の分析は、自分得意じゃないので脇に置いておいて。

今回素晴らしかったのが、なにはなくても親父と息子という家族関係の中でもある種特別な関係の、本作での描き方。
不自然に敬愛しているわけでも、敬遠しているわけでもなく、なんとなく当たり前に父親のことは好ましく思ってる、というあたりはとてもごく普通の息子としての父親への感情なんじゃないだろうか。それでいて、父親のことをそろそろ親父と呼ぶべきかなんて考えつつも、ついつい父さんと呼んでしまってまあそんなものだよなあ、なんて思っている、なんてところは思わずニヤニヤしながら読んでしまった。
この年頃の子供の父親に対する何も特別ではないフラットな感情を、こうも何気なくも染み透るような表現で描かれると、正直参ったなあと思ってしまう。こういうのを巧いというのか、それともセンスの問題なのか。
そんな息子が、あれだけ感情的になって親父の判断に反発したのは、これってエルナのためという部分もあるだろうけど、それとは別に、自分がして欲しかった自分の好きな親父の答えから、現実のオヤジが出した答えが違っていたのが許せなかったんじゃないだろうか、なんて思う。尊敬していた相手が自分を落胆させるようなことをしでかせば、どうしても人はそれを裏切りと感じ怒りと反発を抱いてしまうものであるからして。
うむ、そうなると軋人は地の文で書かれるところの内心で思っているよりも遙かに親父のことを尊敬して信頼して大好きであるということになってしまうわけか。……ぷぷっ、恥ずかしいな、そりゃあ。

一方の親父の方だけど、こちらはこちらで息子を落胆させるような行動をとるにはそれなりの訳があるわけだ。読んでるこっちも、おそらくは反発心を抑えきれない軋人だって頭では納得せざるをえないような理由が。むしろ共感を覚えるという意味では、親父の方が支持者は多いかもしれない。原因であるエルナですらそうだしな。軋人たちが親父の理由に抗える、抗ってしまうのは、むしろその理由の当事者だからこそなんだろう。
そうして、親父の理由に真っ向から対抗できるのも、当事者だからこそなわけだ。
親の心子知らず、というわけじゃなく、子の心親知らず、というわけでもなく、お互いにお互いの想いをちゃんと理解し、それでも譲れず真っ向から大喧嘩。
家族モノとしちゃあ、最高の舞台である。
さらにそこから、容易に越えることのできない家族の長、父親という存在の精神的&物理的なでっかい壁というものをしっかり示し、その上で男の子の意地ってやつを貫き通してその壁を乗り越える、というある意味父親殺し的な儀礼要素も詰め込んでて、いやはや、父親ものの話としては近年稀に見る爽快感と満足感。

最高でしたーーー!!

ちょっと残念だったのが、初恋の方で、軋人がエルナの事を意識する過程のエピソードがもう少し欲しかったかな、というところだけど不満というほどでもなく。むしろ並行して柚島加奈子としっかり、しかもこれまでの巻よりも遙かにイチャイチャさせていた点に感心させられたなり。
どうでもいいんだが、私はこのヒロインは加奈子と下の名前で呼ばれるより、柚島という呼ばれ方の方が好きだ。とくに理由はないんだが。