ガンパレード・マーチ山口防衛戦 4 (4) (電撃文庫 J 17-18)

【ガンパレード・マーチ 山口防衛戦 4】 榊涼介/きむらじゅんこ 電撃ゲーム文庫


鉄壁の強靭さで幻獣軍の猛攻に耐え続ける岩国要塞の防衛ライン。だがカーミラ率いる幻獣共生派の浸透工作により、一個師団が請け負う戦区がまるごと爆破されて、形勢は一気に逆転。
戦いはノーガードの殴り合い。まさに血で血を洗う消耗戦へと突入する。

防衛線の一角がまるごと消滅し、さらに新型人型戦車<光輝号>十機が敵に乗っ取られて、舞と厚志の乗る三番機が撃破され、とどう考えてもチェックメイトかと思われるような凄まじい場面で締められた三巻の終わり。
いったいどうなってしまうんだと軽い絶望感とともに読み始めた4巻だったのですが、なにがどうして。荒波大佐率いる岩国最終防衛ラインを守る兵士たちは精鋭でした。機能する司令部を保持し、戦う意思と装備を持った軍隊はそう簡単には崩れない。すぐさま、崩壊しかかった戦線を立て直していく自衛軍の姿は、九州戦線では見られないものでした。やっぱり、八原決戦での大敗直後だった九州戦線はめちゃくちゃだったんだなあ。
舞と厚志というウルトラエースを撃破した<光輝号>の出現は、こちらも凄まじい絶望感を乗っけてのものだったのだけれど、ここで真打ち登場。格好良い、格好良すぎるよ、荒波司令。味方のはずの人型戦車の攻撃を受け大混乱に陥りかけた味方の被害を最小限に食い止め、滝川や他の戦車隊と協調して、最短時間で<光輝号>を撃破してしまう。
考えてみれば、新型とはいえ<栄光号>と違って歩兵直協型の<光輝号>は動きも鈍重でまともにやればミノタウロスとさして変わらん強さなのよね。乗ってるパイロットも実戦はまだ経験してないエースとは程遠い腕前だし。

正面からのたたき合い。湯水のように戦力をすりつぶしていく消耗戦。こういうありさまになると、後ろの司令部は役立たずになる、ように見えるんだけど、むしろこうした地獄の大がまをひっくり返したように状況が混沌を極めた時にこそ、司令部が機能しているかどうかが軍隊が戦い続けられるかどうかを決定づける。戦力が、装備が、人の命が蒸発でもしていくように消えていくのは、この戦況ならば仕方のないこと。ならば、どれだけ効率的に、効果的に戦力を投入しすり潰していくか。これは後方から全体を俯瞰する司令部にしかできないこと。
ことここに至ると、むやみに戦力を保持しようとすること、味方の被害を少なくしようとすることこそが逆に戦線の崩壊を招きかねない末期的な状況となっている。ここで荒波司令は温存していた予備戦力を投入。
決して目立った書き方はしていなくて、流し読んでたら気がつかないかもしれないけど、この巻での荒波司令の判断と指揮は凄まじいの一言。豪胆にして的確。おおざっぱにして細心の注意を払い、敵の猛攻を支え切っている。
これを名将の指揮と言わずしてなんというのか。


今回は、カーミラという強敵の存在もあって、裏側の戦いも非常に熱かった。これまでは、幻獣側にこういう策士みたいなのはいなかったもんなあ。
問題は、榊氏がこの敵方であるはずのカミーラまで魅力的に書いてしまってること(笑
どうしようもないヤツだった近江まで、彼女と組ませることで余計なものが払拭されてなんか目が離せない興味深いキャラになってきたし。
決して正面から銃弾を交わし合うような相手ではないものの、5121小隊の強力なライバルになりそう。

山口戦に至ってから顕著になってたけど、滝川の成長はすごいことになってるなあ。いつの間にか、本物のエースパイロットになってるよ。それも厚志や壬生屋みたいな特殊な背景のある特別なパイロットじゃなく、素人のへたくそから始まった凡庸な人材が、激闘をくぐり抜け生き残り続けた末に這い上がった本物のたたき上げのエース。あくまで常人であり続けた上での腕前というのが、またいいじゃないですか。他の二機とは違う凄味が出てきてる。自分がどれほどの腕になってるか、本人があんまり気づいてないっぽいのが、また滝川らしくていいんですけどねえ。自分でも上手くなってるつもりなんだろうけど、実際の実力はちょっとどころじゃなくなってますから(笑
今回は荒波小隊の藤代たち他の人型戦車のパイロットから、滝川の戦い方を見る機会があったので、今の滝川がどれほどすご腕になってるかよくわかって、なんかもう嬉しくなってしまった。だって、あのへたれ滝川が、ねえ。
壬生屋も、メンタル面が高い位置で落ち着いて、不安定さやもろさが払拭されてこっちも強靭なパイロットになりましたわ。先の負傷でスタミナや身体能力は大幅に落ちてしまったのだけれど、それと引き換えにパイロットとして、人間としてより大きなものを手に入れた感じ。

逆に、なんかヤバい感じになってきてるのがあっちゃんだわなあ。なんか、足を踏み外してきているような。ぽややんなところがどこか遠くにいってしまって、その狂気が舞など一部の人だけじゃなく多くの人にもわかるように顕著に現れてきはじめてる。
救いは、どれほどあっちゃんがヤバいところに行ってしまっても、今の5121小隊の面々なら彼と自分たちを線引きせず、仲間扱いをやめてくれなさそうなところだけど。

とはいえ、おのが狂気を戦闘力に変換しつづける厚志と、そんな彼を制御する舞のコンビは、魔王そのもの。
再度の爆破工作により、今度こそ完全に崩壊する岩国新防衛ラインに幻獣軍がぶつけてきたのは、これまで温存に温存を重ねてきた最精鋭部隊。高い知能と判断力を有した精兵青スキュラ二百体。
茜大介の進言によって、新防衛ラインを解体し、後方に新たな縦深陣地の構築と部隊の移動を開始していた荒波司令だったが、一歩動きが遅く、爆破の被害こそなんとか留めたものの、新陣地の構築にはもう少し時間が足りない。そこに、敵の精鋭部隊が突入してくれば、岩国は完全に突破されてしまう。現在の日本の地上砲戦力の8割をかき集めた岩国を抜かれれば、幻獣軍の進撃を止めるものはなくなる。すなわちこれ、日本の滅亡。
だが、そこに立ちふさがるは、青の魔王。
災禍を狩る災禍。
突撃行軍歌(ガンパレードマーチ)を背に踊る英雄、絢爛舞踏。

ガンパレード・マーチ。山口防衛戦最終章。
半世紀も続く対幻獣戦争における、人類最初の反攻のはじまりを刮目して見よ!!