BLACK BLOOD BROTHERS 8 (8) (富士見ファンタジア文庫 96-13)

【BLACK BLOOD BROTHERS 8.宣戦恋歌】 あざの耕平/草河遊也 富士見ファンタジア文庫


表紙の背景は、やっぱりシンガポールのどっかなんだろうか。あとがき読むとあざのさんは現地まで取材旅行行ったみたいだけど。
シンガポールというと、どうしても港湾都市、マーライオン、高層ビル群、というイメージなので、こうした明るい壁色の低層建造物が並んだアベニュー、という感じの街並みはちょっと意外だったり。
ちょい昔の香港みたいな近代都市と雑然を通り越した混沌とした街並みが並存している街、というイメージだった特区とは、どちらにしてもかけ離れてるので、ミミコ外国の街を往く、みたいな雰囲気はとっても出てて、物語は特区を離れたんだなあ、という感慨は湧いてきたんですが。
ミミコの表情もいいですよね。なんか、初めての街を歩いてる、という雰囲気出てる。

さて、本編ですけど。
なにはともあれ、尾根崎会長の親バカっぷりにまず目が行く私は異端でしょうか(笑
なんですか、あの初めて娘ができたパパ、みたいなミミコへの溺愛ップリは。しかも、扱い方がよくわかってなくて、過保護にしすぎて逆にダメージ与えてるあたり、もう典型的というか自重しましょう、というか(苦笑
あんなにも気を遣って、ミミコに対して守ってやらなければという姿勢を見せているのは、彼女に事態を打開するための切り札や、新生カンパニーの象徴、有能な部下という姿以上に、亡き陣内の忘れ形見という思いを抱いてるんでしょうかね、尾根崎会長は。
ミミコの事実上の父親代わりだった男。尾根崎にとっては敵意ならずとも複雑な感情を抱かざるを得なかったあまりにも大きくて、劣等感を抱かせる、だが悔しくも尊敬を抱かざるを得なかった部下。
その死に、尾根崎が責任を感じるいわれはないはずだけど、それでも彼はあくまで部下であり、他の人はそうは思わないはずだが尾根崎にとっては自分などより生き残るべきだったと考えてしまうような、負い目もあったのかもしれない。
その男が手塩にかけて育てた娘。心ならずも生き残り、絶望的な状況から復仇を果たさなければならない自分に残してくれた最高の人材。
いや、逆に自分こそが彼女のために生き残ったのかもしれない、と考えることもあったかもしれない。
陣内の代わりに、という気負いが漲ってても、それは当然かもしれないけど。
漲り過ぎて、上司というより保護者みたいになってます、会長(w
陣内があくまで、厳しい上司という姿勢を崩さなかったのに比べて、尾根崎さんってば、全力で守ってやんぜ! という気合いが見えまくってるのがなんともはや(笑
まあ、そこらへんが突然娘ができてどうしたらいいのかわからないものの、とにかく張り切ってしまってやっぱり扱いに失敗してしまってるお父さんみたい、という風に見えて仕方がないんですよねえ(笑

ただでさえ、親しい人を喪い、別れ、特区を追い出されて大変な時に、突然今までの自分からすれば信じられないくらいの立場、責任という重荷を背負わせれ、いっぱいいっぱいだったミミコ。
サマンサ教授がいなけりゃ、完全に潰されてましたね。そのへんの、身の安全ばかりに気が行って、年頃の女の子の内面の浮沈にうまく気が回らなかったのは、神父や会長も忙しかったから、というより男親の気の回らなさなんじゃないだろうか、やっぱりw
そういえば、サマンサみたいな年上の女性って、ミミコの周りにはいなかったですよね。孤児だったミミコにとって、親代わりと呼べるのは陣内だけだったし、母親代わりになってくれるような人はいなかったはず。
その意味では、この出会いはミミコにとって、望月兄弟との出会いにも匹敵する大きな出会いだったんじゃないだろうか。

サマンサ教授の語る、血によって繋がる吸血鬼と、繋がれない人間の違い。
これは素晴らしかった。今まで霧が立ち込めていたものが、パァーーっと一気に視界が開けたような感覚。
アリスとジローの関係に、どうやっても割って入れるような要素が雫の一抹も見当たらなかったミミコ。内心、諦めつつも鬱々とした気分を抱えてたんだろうけど、サマンサの励ましは彼女の中の陰りを一気に吹き飛ばしてくれたような気がする。
そりゃ、三人が再会したときやたらとテンション高いのもわかるわー。

と、同時に吸血鬼の血族となることがどういう意味なのか、これまで漠然とだった理解がすっきり心身になじんだような気がする。
 ゼルマンの死に直面したサヤカが、今後どういった道を辿るのか正直心配だったのだけど、サマンサの話と特区をさまよっていた彼女が戦いの中で得た実感、それが彼女の今後を明るく照らしてくれた気がします。
そして、彼女と行動を共にすることになったバウワウ大公。ほんと、何してるんですか、貴方は(笑

奪われた特区を取り返すための戦い。それは、きっと世界中を物理的にも概念的にも巻き込む、人々の価値観を揺るがそうという戦いになるのでしょう。

「Are you known?」

世界に発信される、ミミコの言葉、ミミコの想い。
ここから連なる一連のシーンに、実感しました。きっと、この物語は単純に特区を占領する九龍の血族を倒して排除して終わり、という形にはならないでしょう。それでは今までと何も変わらない。
香港聖戦の結末と何も変わらない。
聖戦を戦い抜いた陣内たちは、特区という人間と吸血鬼が共存する街を世界に生み出しました。ならば、次の戦いをくぐり抜けた先には、いったい何が待ち受けているのでしょう。

今から、その先に描かれているだろう世界の情景が待ち遠しくてなりません。