“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫 の 2-6-6)

【“文学少女”と月花を孕く水妖】 野村美月/竹岡美穂 ファミ通文庫


いったい、この遠子先輩という人は何者なんだろう。自称文学少女。心葉くんが言うところの、物語を食べる妖怪。でも、幻想の領域に住むアヤカシの類というには、彼女にはちゃんと住む家があり通う学校があり、友達がいて家族同然の人もいて、ちゃんと日々を生きている。彼女は、彼女としてちゃんと存在している。
でも、普通の人間というには、どこか存在感があやふやなのだ。今にも消えてしまいそうな儚さを垣間見る瞬間がある。次の瞬間、何の痕跡も残さず、この世界から消え去ってしまいそうな、そんな心もとなさ。

今回の物語は番外編。時系列としては二巻の後。夏休みの出来事。80年前に起こった事件の再現であり、遠子先輩の天敵であり親友である【姫】こと麻貴先輩の物語だ。
だがしかし、今回の話の深層に横たわっていたのは、徹底して遠子先輩の物語だったのではないだろうか。百合の心情。泉鏡花のネームの元となった鏡花水月の言の葉。鏡花の描く物語に刻まれた一連の作風。それら輻輳的に込められた意味の底辺に通じるのは、いまだ秘められた遠子先輩の想いと運命。
エピローグで示された未来からの回想。そこに込められた、身震いするほど切ない想い。思い出への郷愁。
第七巻卒業編がいかなる物語になるのかを自然と想起させる淡くも強烈な思いの発露に、どこか打ちのめされた感すらある今巻でした。