ドラゴンキラー売ります (C・NovelsFantasia う 2-3)

【ドラゴンキラー売ります】 海原育人/カズアキ C★NOVELSファンタジア


小悪党小悪党と連呼される主人公のココ。確かに、野心のせせこましさやややも短絡的なところ、小心者で暴力を愛し保身に手段を選ばないところなんか小悪党然としているんだけど……。
私が見る限り、この一旦身内と認めた相手には、主義主張を曲げても、身の程を逸脱しても、どんな卑劣で悪辣で乱暴な手段を使おうと、自分の命が危険にさらされようと、スジを通し、その身や将来を守ろうとする姿は、むしろゴッドファーザー的な懐の深さを感じるんですけどねえ。
どう見ても非道で金にうるさく暴力を好み、人間の屑に分類されるしかないココという人間を、堅苦しいくらいの正義感の持ち主のリリィやアルマが、信頼したり懐いたりしているのは、その辺のココの器量があるんじゃないでしょうかねえ。
実際、ココの身内への甘さは、他人への辛辣さ冷徹さと比べると別人かとすら思うようなものがある。特に、アルマへのそれは物凄いまともだもんな。幼い彼女を一個の人格として認めて意見を聞いたり、いずれはこんな腐った街から出してちゃんとした教育を受けさせなければと考えたり、ある意味リリィより真っ当に彼女の将来考えてるんだもんなあ。
思えば、二巻での元上官に対してのグズグズした態度も彼を身内の一人と捉えていたと思えば、いろいろと納得できる。どれほど理不尽な態度、横暴な行為に晒されても、我慢していたのは、彼が元上官という立場的なものじゃなくて、同じ戦場を戦った戦友で、過去には好意を抱いた相手であり、ある種の負い目を背負った人として、身内と捉えていたんだろうな。
だけど、一旦身内ではない他人とそいつを分類した瞬間から、ココは彼を冷徹にゴミくずのように切って捨てる。相手もろくでなしだったから、決別したとはいえ、その割り切り方、身内とその他の区別の峻烈さは、ちょっと凄いものがあるね、この人は。
その意味でも、マフィアのドンっぽいというかなんというか。

ろくでなしなのは間違いなく、悪人なのも間違いない。でも、ちゃんと自分が人間のクズだと理解していて、何がまともで正常なことなのかも分かっていて、自分のやれることやれないことを見極める賢明さも持ち合わせている。それでいて、身内のためならそうした賢明さも保身もかなぐり捨てて守ろうとする。そこには決然とした意思とか信念があるわけじゃない。内心は嘆きうろたえ後悔し呪詛し尻尾をまいて逃げようとすることを肯定し推薦し奨励している。でも、自分はバカで愚か者だと頭を抱えながら、結局自分の命や立場、安全を無視した行動に出てしまう。
リリィみたいな堅物女だからこそ、こうした普段小憎たらしくても可愛げのある男にゃ、惚れちまっても仕方ないのでしょう。こんな頼りなくて頼もしい男、自分が傍にいてやらにゃあ、という気になっても仕方がない。
しっかりもののちっちゃいアルマも、そんな自分がいないと、って気持ちがあったんじゃないかなあ。だからこそ、最後、ココの指示を拒絶して我儘を貫いたんじゃないだろうか。

破滅的な状況から、なんだかんだと和やかな終幕にニヤニヤしつつ、これで終わりというのは残念だなあ、と思うのは思ってた以上にこのろくでもない街のろくでもない連中のことが気に入っていたのかもしれません。
全三冊というお手頃ですし、オススメ。