君のための物語 (電撃文庫 み 13-1)

【君のための物語】 水鏡希人/すみ兵 電撃文庫


[第14回電撃小説大賞<金賞>]作品。今月登場した電撃の新人作品の中では、飛びぬけて私の好み直撃でした。
とにかく上手い。抜群に上手い。それでいて、飄々として捉えどころのない「彼」と、ちょっと恍けてヌケていて憎めない「私」。二人の掛け合いはコミカルで嫌みがない。地味ながらしっとりとして、ジワリと読む側の情感を揺さぶる厚みのある話が続くにも関わらず、どこか肩に力を入れず柔らかく物語の余韻に浸してくれるこの優しい雰囲気は、上手さゆえの圧迫感や重たさを感じさせず、非常に心地よい比重で言の葉を滑らせてくる。これは、エンターテインメントとしてもとても優れた作品ということなのだろう。

小説家になるという夢に挫けかけていた時に「私」が出会ったのは、川に身を投げようとしていた女性と、一人の整った風貌の奇妙な男。
出会い、というのはやっぱり大きな運命なのでしょうかね。たとえその果てに別れが待っているとしても、出会って同じ時間を過ごしたということ自体が大きな価値となって、その人の人生に重きをなすことになる。
人ならざるものである「彼」と、それを知りながらも気の置けない関係を築くことになる「私」。この二人のコミカルな掛けあいと、その奥で確かに垣間見える友情、親愛の情の柔らかさは、ただただ何か掛け替えのない宝物のようなものを見ているようで、微笑が抑えられない。
凍えるような冬空の下から、暖炉の火によって暖められた部屋に帰ってきたような、そんなぬくもりを感じさせてくれる、素晴らしい物語でした。

第一話を読んだあと、口絵の「セリュエの世界」を見て、悲しいような嬉しいような、複雑な情感に浸る。つまるところ、大切な想い出というものはそういうものなのかもしれない。
傑作。