BLACK BLOOD BROTHERS S 5―ブラック・ブラッド・ブラザーズ短編集 (5) (富士見ファンタジア文庫 96-14)

【BLACK BLOOD BROTHERS S 5―ブラック・ブラッド・ブラザーズ短編集 (5)】 あざの耕平/草河遊也 富士見ファンタジア文庫


うははは、調停屋っつーか、もはやなんでも屋になってるじゃないですか、ミミコさん(笑
このままいくと、街の顔役になりそうな流れなんですが。
特区の中でも特に居場所のない吸血鬼や人間が流れ着いて街をなしている第二地区。短編集がどれだけ続くか分からないですけど、この雑然とした街を舞台とした話はいろいろとやってほしいなあ。吸血鬼と人間が共存しているという特殊な場所である特区ですけど、表向き吸血鬼はその存在を隠しているわけで、ここに暮らしている人間の多くは吸血鬼がすぐ近くに住んでいることなんて知りもしない。ところが、この第二地区では吸血鬼も人間もお互いその正体を承知しながら、お互い生きることに忙しくていちいち種族の違いなんか気にしていない、というある意味特区の中でも特別な共存の形態を示してしまっている地域なわけです。
これまでのミミコの属するカンパニーが行う調停っていったら、吸血鬼の血族間のトラブルの仲裁や、吸血鬼の存在を人間から隠蔽することがメインだったわけですけど、この第二地区だと今までになかったトラブルが降って湧いてきそうじゃないですか。それこそ、これまでみたいに人間の目から隠れてじゃなく、おおっぴらに街の真ん中を、街の人間や吸血鬼に声かけられながら、ミミコやジロー、コタローたちが駆け回るような馬鹿騒ぎが。
カンパニーを離れ、一介の調停屋としての道を歩みだしたミミコたちが活躍する舞台としては、理想の街であり、将来ミミコが目指すであろう吸血鬼と人間の共存の在り方の原型として、ミミコの忘れられない故郷となりそうな街だと思うんですよね。
短編が続くなら、もっとこの街を土台にした話を広げてほしいなあ、と期待するところ。

一番素晴らしかったのは、やはり最後に掲載された中編【月と太陽のモンタージュ】でしょうか。
第二次大戦後から香港聖戦へと至る半世紀。その五十年余にわたる時代の流れを、さまざまな吸血鬼のその時の姿を通して送るこの中編。
ストーリーらしきものはないんですけど、とにかく時代のうねりや胎動といったものをひしひしと感じる話でした。
悠久の流れに身を任す吸血鬼にとっても、この半世紀がどれほど劇的で大きな変化を伴うものだったのか。それまで雄大に流れていたものが、激流と化し、時間という枠の外から時代を睥睨しているようだった吸血鬼という存在ですら容赦なく飲み込み、やがてくる吸血鬼と人間の関係を一変させる転換点、香港聖戦という一点へと押し流していくような巨大な奔流。
そして、その先、葛城ミミコという存在が生み出すであろう吸血鬼と人間の新たなる世界、大いなる海へと繋がるであろう時代の流れを垣間見るような、なんかスペクタクルな話でしたねー。
なんかこう、歴史を感じさせる話って好きなんですわ。しかも、それが今現在の歴史の転換点へと流れ込んでいくようなうねりを感じさせる話ならなおさら。

しかし、かの革命家をゼルマンと共演させたのは、やっぱり作者の趣味ですかねえ(笑
いや、彼の理想と足跡を顧みれば、それはどこかこの物語の進むべき道と交わる部分もあるわけで、これはオマケじゃなくある種の明確なメッセージなのかもしれませんねえ。
そして、彼女の出演。この手の邂逅は、胸を突くような哀惜を伴うものだったはずなのですけど、あざのさんはすごく優しく労わるようなエピソードに整えてくれたなあ。

って、あとがき見たら、短編集は次がラストって書いてあるじゃん。
おーい(苦笑