ガンパレード・マーチ九州奪還 1 (1) (電撃文庫 J 17-19)

【ガンパレード・マーチ 九州奪還 1】 榊涼介/きむらじゅんこ 電撃ゲーム文庫



あらすじだけを読むと、後方の現実を見ない暴走によってはじまった九州奪還作戦、というイメージに偏ってしまうんだけど、本編を読んでいくとあながちそうとも言い切れないんだなあ。確かに後方は現場をちゃんと見ていないかもしれないけど、茜大介が分析しているように防衛に徹しているだけじゃラチがあかないのも確か。でも、九州自体は資源があるわけでもなく、幻獣を撃退したからと言ってすぐに人間が住めるようになる…国力を潤す策源地として機能し始めるかどうかはあまり期待できない。善行さんは九州上陸は時期尚早という意見みたいだけど……うーん。この作品、基本的に善行の考えって理と筋が通ってて正しいように見えるんだけど、案外現実が善行さんの考えどおりに行かない、というパターンが多いので油断できないんだよなあ。ただ、紆余曲折あっても失敗、ミス、思惑違いが頻発しても、最終的には善行さん、戦略的勝利は確実に確保しているので彼への信頼感はいささかも失墜しないのだけど。
それにしても、九州という地に対する古参兵たちの思いには、心打たれるものがありました。数えきれないほどの戦友の屍を残し、守るべき民間人を守り切れず、ただ追い散らされ壊走し、逃げ惑った挙句に追い出されるしかなかった九州の地。
山口防衛戦でボロボロになり、後方の理解も得られず、本来なら厭戦気分が蔓延りかねない状況の中で、どこか粛々とした態度で九州上陸の命を受け入れる彼らの深く重たく寂寥とした感慨。もっと勇壮な勢いで攻勢に入ると思っていた私にとっては、この空気は胸を突かれたなあ。
5121小隊の面々は、哀しいほど戦場にどっぷり浸かっちゃったんだなあ。
そうか。素子さんはかつて善行の変貌に、こんな切ない思いを抱いていたのか。ある意味、彼ら5121小隊の面々は、少女素子が恋をした誠実で心優しく出世栄達とは縁のないはずだった青年が、戦争によって辿ってしまった道筋を、今同じように辿ってしまっているわけか。
それは同時に、善行の庇護から巣立つ時を迎えているとも言えるわけだ。ただ目の前の敵と戦い、生き残ることを考えていればいい時間は終わりを告げつつある。舞をはじめとした人の上に立たねばならない立場に就く者たちは、兵であることからすでに将としての在り様を身につけなければいけない段階に来ている。
これからはもうエースパイロットで居ては困る、という舞への課題は辛辣だけど、期待の表れでもあるわけで。
でも、これが九州時代の舞たちならとてもじゃないけど無理な話だったろうけど、山口での戦いを経て、みんな成長してるからなあ。舞なんて、ほんとにあのお姫様が将官らしくなったし。それでいて、5121小隊の面々はみな各人らしさを失ってないし。戦争という地獄でそれぞれすり減らし削り取られてしまった部分はあるにしても……。滝川なんか、古参兵としての風格が自然に醸し出されてますしねえ。
ただ、森ちゃんのメンタル面がかなり危険なことになってるのと、あっちゃんの狂気がちょっとヤバいんじゃないかという段階に来てるのが心配。特に厚志はなあ……。周りの連中は悪い意味で慣れてしまったのか、あまり気にしなくなってるけど、あれはかなりヤバいですよ。傍から見てたら完全にオカしい。血に酔った殺人鬼そのものじゃないですか。最近、厚志の思考も悩んだり深く考え込んだりということが少なくなって、とても短絡的になってるようで、とにかく怖いし、危なっかしい。大丈夫か、ほんと?


戦局は、九州再上陸を果たしたものの、敵の抵抗は乏しく、未だ幻獣軍の真意は見えてこない。
待ち構えているのは栄光の勝利か、泥沼の地獄か。本番はまさにこれから、といった風情で次巻へと続く。