ばいばい、アース 4 (4) (角川文庫 う 20-4)

【ばいばい、アース 4.今ここに在る者】 冲方丁/キムヒョンテ 角川文庫


私のことを想いながら 闇の中で悶え続けろ


巨大な、それこそ雲の上まで突き抜けるほど高く聳え、吼えるように荒々しくむき出しになった岩肌を曝け出す、大自然の絶壁を思わせるような、とにかく凄まじい作品でした。
ここから切り出され、見事に整えられ、加工され、調律されたものが、以後の冲方作品だとしても、まさにその原点にして原初。あらゆる要素が凝縮された集大成ともいうべきはこの【ばいばい、アース】なのでしょう。
以後の作品に比べれば、洗練はされていないかもしれません。でも、ここには荒々しい熱量によって浮き出された美しさがありました。人は、人の手のくわえられていない自然の壮大さに、魂を奪われ、震撼し、そこに芸術性を見出し、美しさを垣間見ます。この作品の言葉の旋律、主題の追及、観念的な詩情の流れは、まさにそんな美しさに満ち満ちていて、読み進める間、常に胸を突かれ、何度も涙を拭わされるはめになりました。
端的に言うなら、感動させられた、という他ないのでしょう。

この物語を記す言葉の河は、複雑にして難解。リドルの海に溺れさせようというかのように、息継ぎをさせる暇なく、押し寄せてきます。でも、きっと難しく考える必要などどこにもないのです。ただ、その言葉から伝わる想いを感じ取ればいい。それだけで、この物語は決して難解でもなんでもなくなります。
この作品の言葉達は音楽のようなもの。聞き入り、胸にとどめれば、自然とその意が心に伝わる。

ラブラック=ベル。理由の少女。彼女が失い、そして得たものはなんだったのか。彼女はとてもたくさんのものを得たようにも、掛け替えのないものを失ったようにも見える。だが、彼女の物語が始まった最初の時と、旅に出るこの時を比べれば、彼女の見出したものはおのずと感じることができるだろう。
そう、感じるものなのだ。この物語がいったいどういうものであったのか、登場人物たちが辿りついた境地、それぞれの理由。世界の在り様。それは決して複雑ではなくとてもシンプルだ。だからこそ、あまりにも多くのものを内包していて、それは短い字面では一端を伝えることすらかなわない。要約出来ないそれは、感じることでしかこの胸に据え置くことはできないに違いない。
彼女は旅に出る。だが、帰る場所はここにある。たとえ、そこが故郷ではないのだとしても、そこには彼女を待ってくれている人たちがいる。
「ばいばい」

告げるその別れの言葉は、泣きそうなほど優しく、温かく、不安の影はどこにもない。
豊穣の荒れ野を行く彼女の道に、ただ光のあらんことを。