レンタルマギカ  ありし日の魔法使い (角川文庫―角川スニーカー文庫)

【レンタルマギカ ありし日の魔法使い】 三田誠/piko 角川スニーカー文庫


<アストラル>先代社長、伊庭司。今まで誰の口からも語られず、人柄も性格も何も分からず、ただ協会を含め多くの魔法使いから一目置かれた魔法の使えない魔法使い。【妖精博士】という異名しか伝わってこなかった男。
そうですか、こういう男だったのかー。息子であるいつきとはまた全く違うすちゃらかな性格。だけどその根底に流れるものはやはり親子だと思わされる魂の熱量、理想の高さ。
なるほど、これは立場を異にし一癖も二癖もある魔法使いたちですら魅了されずにはいられない魅力的なカリスマだ。
そして彼がうち立ってた異端の結社。魔法使い貸出業。<アストラル>の創設目的。その気高くも当たり前な目的が明らかになったとき、未だ魔法使いらしくない、魔術結社らしくない<アストラル>に馴染めずにいた猫屋敷が、自分の求める<アストラル>の在り方にたどり着いたとき、伊庭司の口から語られたとき、確かに心が震えました。

次世代の若者たちが引き継いだ<アストラル>。現社長伊庭いつきが、今、社員たちとともに辿りつこうとしている<アストラル>の答えは、先代たちが目指し託した夢へと至ろうとしていたわけだ。それは猫屋敷や隻蓮といった先世代から残っていた先達が導いた答えではなく、いつきが、穂波やアディ、みかんや黒羽といった今のメンバーと一生懸命目の前に<アストラル>に襲いかかり、あるいは託されてきた事件と向き合うことで、彼ら自身が自然と導いてきた答えなわけで。それが自然と<アストラル>の創設目的そのものへと至る道筋だったことは、なんか感動した。させられた。

と、同時に伊庭司はそれを叶えることができなかったんですよね。ユーダイクス、隻蓮、ヘイゼル、猫屋敷、そしてあの男。ここでは柏原と名乗るあの男。これだけの魔法使いを有しながら、<アストラル>は一度潰え、伊庭司は姿を消してしまうわけです。
<アストラル>に何があったのか。何が起こったのか。まだそれは明らかになっていないのですが、かつての<アストラル>がなし得なかったことを、いつきたちは為そうとしているわけです。これって世代を超えた想いの成就の物語ですよね、ある意味。頑張れ、頑張れ若者たち。

それにしても十二年前。猫屋敷は若かったんだなあ。今回の主人公はまさに彼ですよね。前の短編で彼の少年時代がどれだけ荒み、破滅の道へと突き進んでいたかは明らかになったのですが、柏原にスカウトされ、司に拾われ<アストラル>に加わったあとも、彼の魔法使いとしての業は彼を苛み続けていたわけで。
その身を焦がすような絶望は、この巻で出会い戦うこととなる、同じ業を背負った老魔法使いとの戦いで猫屋敷本人に突きつけられ、その果てに、彼は希望を見出します。なぜ、彼があとに社長を無くし、社員が散逸し、もはや結社の体をなさなくなった<アストラル>を十年以上にわたって一人で守り続けたのか。彼が<アストラル>という異端の結社に託した想いがどれほど痛切で、彼が魔法使いの在り様に望み願った姿がどれほど一途だったのか、改めて思い知らされた感があります。
それだけに、彼が守ってきた<アストラル>にみかんと穂波が加わり(これも、幼い頃の穂波と猫屋敷が交わした約束を思えば、かなりクる話ですよね)、新たに社長であるいつきを迎え、アディや黒羽、オルトといったメンバーが増え、<アストラル>が蘇ったことに、それもかつて猫屋敷が夢見た願いをまっすぐに貫くようなあり方で<アストラル>が動き出したことに、今の猫屋敷がどんな感慨を抱いているのか。飄々としてなかなか心底を見せない男ですけど、嬉しかったんだろうなあ。

でも、伊庭司の主張には改めてパーーッと目の前が開けた感があります。
いつきたちがつかみ始めていた<アストラル>の在り様を、一言で表してくれたような。
そう、魔法使いだって、幸せになっていいじゃないですか。
今まで誰も、誰もそんなことを言ってくれなかっただけに。この一言はあまりにも重く、衝撃的で……眩しかった。

先代から続く<螺旋なる蛇オピオン>との因縁。これから巻き起こるであろうオピオンとの対決に、アストラルは確定的に関わらざるを得なくなったのですが、それでも、先世代に勝るとも劣らないメンバーの揃った今の<アストラル>なら、この結社の理想を実現させてくれるのではないかと、期待を募らせずにはいられません。
いずれ、先代<アストラル>の崩壊の真相や、影崎という男の意図も<アストラル>の前に立ちふさがってくるのでしょうけど……うんうん、面白くなってきた。今回は過去話ではあったわけですけど、おかげで盛り上がってきましたよ。