七姫物語 第5章 (5) (電撃文庫 た 15-5)

【七姫物語 第五章 東和の模様】 高野和/尾谷おさむ 電撃文庫


澄み切った透明な雰囲気はそのままに、東和の情勢はまさに激動の展開に。
いやいや、これどえらいもの凄いことになってるじゃないですか。この七姫物語って、通常の戦記モノとは見てる視点が少し違う位置から見ているからかふっと見過ごしてしまいがちですけど、物凄い高度な大戦略と政争が繰り広げられてるんですよね。
あくまで見過ごしてしまいがち、というだけであって書かれていないわけじゃない。その辺の裏の動きや、そこから派生する表面上の情勢の変化。あっと驚かされる決定的展開。全部しっかり描かれているにも関わらず、硬派な宮廷劇、戦争モノとならないのは本当に不思議。
今回なんて、唖然とするような配置転換があったわけだし。いや、この情勢の大転換には本当に仰天させられた。

七人の宮姫たち。この五巻では、主人公である空澄を除いた他の宮姫たちにもグッと踏み込んできた感がある。予想外だったのが双子姫か。もっと儚くもっと曖昧模糊とした意思の持ち主かと思っていたのにどうしてどうして。強国に囲まれた地政の中で強かに立場を気付いてきた都市を導く巫女姫として、思っていた以上に強く意志の強靭な姫様たちでした。
一宮の黒曜姫、二宮の翡翠姫。彼女らを擁する二大都市の本格的な衝突から、それぞれの都市の内実や姫たちの気性、心情も深く踏み込んで描かれ、これでおおよそ七姫たちがどんな人物か見えてきたわけですが……。

三宮の常盤姫。彼女が空澄を妹のように可愛がりながら、浅黄姫にポツリとこぼした「七宮が怖い」という一言。彼女の空澄評はかなり深いところを突いたように思えます。
七姫の実体が出そろったところで、空澄という少女がどれほど他の姫たちと違っているのかが、今回浮き彫りになったような。異端ですよ、彼女は。
ある意味、あの黒曜姫よりも異端。
今回、はっきり分かったような気がします。カラスミって東和の巫女姫であるよりも、七宮の宮姫でもある以前に、まずあのトエルとテンという悪者二人の仲間なのですよ。傀儡でも担がれる御輿でもなく、一緒に悪だくみをする仲間。
宮姫として常盤姫とともにクラセ、マキセを訪問している空澄と離れてウロウロしながら、章の合間合間でいつも通りのくだらないバカ話をしながら悪だくみをしている軍師と将軍。
でも、離れてても、あんまり関係ないんですよね。空澄はちょっとさみしそうでしたけど、自分なりに好きにやってたわけですし、彼女の想像通り二人は遊ぶみたいに悪だくみを謀ってたわけですし。
最後に合流した時の空澄と衣装役さん、テンとトエの四人組にヒカゲを加えたこの五人。やっぱり、一味ですよ、悪党一味(笑
立場や役職なんて単なる遊び道具としか思っていない遊び仲間。ほかの連中と違って、この人たちだけは国や家を慮ったり、権力や利益に見向きもせず、遊びや悪戯に興じているようにしか見えない。これは、嗜め役の衣装役さんだって、本質はいっしょでしょう。なんだかんだ言いながら、あの悪者たちに付き合ってるわけですし。空澄にしたって、自分の思う通りにやっている。それこそ、宮姫だからだとか、カセンのため、東和のため、という責を一切考えずに。もちろん、自分の立場に対する期待や想いを蔑にしているわけでないのは、彼女の言動からも明らかなんですけど、それを重荷だとか責任として一切とらえている節がないんですよね。
その辺が、責任感の強い常盤などをして、恐ろしいと言わせる所以なんだろうけど。
空澄とはやっぱり、ピッタリの名前ですよねえ。前から思ってましたけど、今回は特にそう思わされました。澄み渡った濁りのない透明さ。縛られることのない自由。すべてを映しただ見つめる鏡。
彼女にぴったりだ。

あっと驚く人の再登場もあり、東和の情勢は一気に再整理、再編成され、並べなおされた盤上の駒は、停滞をもはや許さず一気に終局へと向かい始めている。
どうせ、次が出るのも一年以上先なんだろうけど……こうなったら、楽しみだとしか言えんよなあ。
いったい、この悪党一味の行く末がどうなるのか。なんか東和に留まることなくどこまでも好奇心の赴くまま飛び出していきそうな大きさを感じるけど、うん、とりあえずこの幼い姫が何を見るのか、見届けたい。