スプライトシュピーゲルIV  テンペスト (富士見ファンタジア文庫 136-11)

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死……死ぬな……死ぬなっ! 死ぬなーっ!!

MSS副官ニナ・シュニービッテン主任捜査官の絶叫は、まさしく自分の懇願だった。
国際法廷の証人として集まった七人の要人たち。偉大で、尊く、素敵で、眩しい、あまりに魅力的で、大きく、人の理想と希望を体現したような素晴らしい人間たち。
この世界の現実という名の絶望を誰よりも思い知りながら、なおもこの世界をより良き素晴らしい世界へと変えていくことをやめない人たち。
その素晴らしき人々が、次々に殺されていく。
気が狂いそうになる。胸が張り裂けそうになる。心が砕け散っていく。
彼らを守るため、鳳が、乙が、雛が、MSSの隊員たちが、治安組織のあらゆる人間たちが血と鉄をばらまきながら、必死に、本当に必死に、あの冷徹で動揺を知らないようなニナ・シュニービッテンすらもが、泣き叫ぶようにしながら戦い、守ろうとしているのに。
それでも、証人たちは死んでいく。殺されていく。あの、素晴らしい人たちが。ただ一日の、僅か数時間の邂逅で、鳳たちの心を虜にした素敵な人たちが。
本当に、辛かった。読んでいて、これほど焦燥と無力感を感じたことがあっただろうか。
それでも、苦痛に打ちのめされなかったのは、殺されていく彼ら証人たちの揺るぎない意志。そして、夢を見ることなく、ただ胸を抱え、世界の行く末を信じ、願いを叶えんとした彼等の想いゆえだろう。
ダメだ、立て

要人の一人、ハロルドは、心折れそうになった鳳に、容赦なくそう叱咤した。
立ちあがって戦え(スタンド・アップ・アンド・ファイト)――――君の場合は、飛び立って戦え(フライ・ハイ・アンド・ファイト)がふさわしい

そう、彼等が証人としてこのミリオポリスに集まったのは、悪徳の塔を崩した妖精(スプライト)たち。アゲハたちの存在に、世界の希望を見出したから。人類の希望ともいうべき彼らが、未来と希望を託したのは次なる若き世代たち。
彼らにより素晴らしい世界を残す礎となるため、この世界に打ち込まれた楔を打ち砕くため、彼等は自分たちが殺されることも視野にいれ、この戦いに挑んだのだ。
彼等の想い、彼等の決意。そして彼等が用意していた二重三重の勝利への策が明らかになるたびに、悲しみを糧に絶望は振りはらわれていく。
驚愕の展開が二度三度と繰り返され、思いもよらぬ真相に絶句させられる。
まさしく、息つく暇もなく、感情が上下左右に揺さぶられて止まることのないジェットコースター・ストーリー。

問答無用に最高傑作!!

富士見ファンタジア文庫史上、最厚を記録したという541ページ。あまりにも濃密な541ページ。
☆がいくつあっても足りない。

やっぱり、このシュピーゲルシリーズは、託される物語だ。この物語の少女たちは、いろいろな人々の願いや想いを託され、ただ治安維持組織の隊員として任務に従事するだけではない、自分が世界に対して向き合うべき役割というものを自覚し、育てていこうとしている。
未来を担う次世代の若者として。
彼女らに思いを託す大人たちは、悪夢や地獄と同意義かと連想させるような現実の非情さ、理不尽さ、残酷さを容赦なく彼女らに突きつけ、理想のはかなさ、無力さ、破滅性を見せつけ、思い知らせ……だが、その上で、だからこそ希望を。この世界がどれほど素晴らしいかを伝え、指し示し、人の可能性がどれほど無限に広がっているものなのかを教え、去っていく。
正しいと思っていたことも悪手となる。夢を見るな。
そう伝え、この四巻における証人たちは、三人の妖精とニナに贈り物を送る。それこそが、信認の証。未来を託した希望の在り処。
彼等が伝えた言葉の、その真意は最後に明らかになる。その意が明らかになったときの、あの感動はこの先ずっと忘れられないだろう。

残り、あと二巻だというこの物語。彼女たちが受け取った希望は、きっとそこで結実するに違いない。
それはもう揺るぎない確信だ。それほどに、人々が残した教えは重く、眩しいほどに輝いている。


これまで、一瞬の邂逅だったスニーカー文庫の【オイゲンシュピーゲル】のケロベロス小隊の三人とのリンクも、今回はさらに密接に展開。
別の戦場で戦いながら、僅かな携帯電話でのやり取りを通じて、彼女らは確かに同じ戦いを共有する戦友として戦っていた。
心折れそうになるたびに、涼月との喧々囂々のやり取りで元気を取り戻すアゲハ。思えば、ツバメやヒビナは妹分で面倒を見る相手であって、対等にやり合える相手ってアゲハの周りにはいなかったんですよね。冬真は、友達という関係と言うにはもうあんまりにも距離感が狂っちゃってるし。

今回の話で私が心底惚れ込んでしまったのは、やはり七人の証人の一人、ハロルド・レイバースFBI捜査官でした。
もう、めちゃくちゃカッコイイ。こんなかっこいい捜査官、見たことないよ。もうべた惚れ。最高。抱いて。
たとえば、この人がドラマ【24】の主人公だったら、24時間どころか三時間くらいで事件解決しそうな勢いの、音速の観察眼、判断力、知識に決断力、揺るぎない意志と信念。
戦場と化し、錯綜する状況で、自らも命を狙われているかもしれない中で微塵も揺るぐことなく一度として止まることなく疾走するような思考で淡々と真相を追究し、敵の思惑や策謀を見事に看破し、次々と混迷する事態を解体し、アゲハを導いていくその姿。もう、めちゃめちゃ痺れた
そしてまた、彼も継ぐ者。
……ああもう、ビリビリだ。


このテンペストがあまりにも凄すぎて、印象が吹き飛びそうなんだけど……いや、そんなことは決してないか。テンペストの前に乗っている短編の【フロム・ディスタンス 彼/彼女までの距離】がまた、素晴らしいんだ。これ単体でも、最高傑作!! と叫びたくなるくらいに。
なんで、わざわざテンペストの前にこの短編を配したのかと思いたくなるけど、むしろこの話におけるアゲハの精神的な解放、冬真との関係の変化を踏まえてこそ、あのテンペストがある、というべきなのかもしれない。
いや、この話、本当に素晴らしいんですよ。

☆をつけるとしたら、六つ星を飛び越え、これはもう七つ星を掲げたい。
とにかく、本当に凄かった。凄すぎだった。もう最高の最高傑作。
万難を排して、ひたすらに読むべし。必読。
特に、あの証人たちとアゲハ、ツバメ、ヒビナとニナがプレイするテーブルトーク・RPG【世界統一ゲーム】もしくは【レヴァイアサン】の下りは、人によってはあの【マルドゥック・スクランブル】のカジノに勝るとも劣らないと評するかもしれない、凄まじい内容で、ぜひ読んで欲しい。
そして、感動に打ち震えてほしい。素晴らしかった。
しかしあれは、平和を唱えていたら平和が成立すると思いこんでる輩にとくに見せたいゲームだよなあ。あのゲームは怪物【レヴァイアサン】の名がふさわしいと思いますよ、私は。途中からの制御が叶わず混迷と暴走が際限なく広がっていく国際状況の変転は、あれはまさに【レヴァイアサン】の名がふさわしい、怪物的なものでしたし。
おそろしいのは、これが現実そのもの、ってところなんだよなあ。
ああもう、いくら言及しても足りないくらい、とにかく凄かった。
なんかすごかったとしか言ってないような気がするけど。
本当に未読の人、絶賛オススメですよ。