ミスマルカ興国物語 II (角川文庫―角川スニーカー文庫)

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むう。
一巻と二巻、まだ二冊だけなんですけど、この主人公マヒロ王子。今までの林トモアキ作品に出てくる主要人物の中で、一人だけ飛びぬけて度し難いバカ野郎なんじゃないだろうかと思えてきた。
なんというか、このマヒロって誰も信用してないっぽいんですよね。全部、自分ひとりでやろうとしている。誰にも相談すらせず、本心を見せず、正体を見せず、力を借りようともせず、そのくせ天秤にかけているのは国家そのもの、臣下や国民のすべて。それらを軽々とチップとして賭けてしまう。
彼の信念は平和主義、暴力否定と徹底しているようだけど、それは理想というよりも自身のトラウマから発生した妄執に近いようなどちらかというと負の感情に近いようなものにも見えるし。
失敗に対しても方法論や自身の力不足に対しては反省しても、根本的な自分の独走的なやり方に対しては一切反省している節が見当たらないのが、なんとも将来的な不安が垣間見えてしまう。
もっとも、その行動原理が理想主義的な綺麗なものでないからこそ、こうしたいっそ独善的とすら見えるマヒロ王子のやり方に、嫌悪感や不快感を感じないのだろうけど。
ただ、こいつは一度、結果的にとんでもない地獄のような惨状を導いてしまいそうで、とても危うい。いや、彼の過去からして二度目の地獄を繰り返してしまう、というべきか。
まだ【お・り・が・み】の伊織なんかの方が、他人の利用の仕方にしても、相手の想いや力を理解し信用した上でそれを利用しているという悪としても相手に対して筋の通った利用の仕方をしてたように思うんですよね。それに比べて、マヒロの利用の仕方は、展開しえる状況の一要素としてしか重さがなく、突き放してる感があるんですよね。もし思惑通り動かなかったらそれで仕方がないと思ってるような温度の低さ。期待が感じられないというか。
しかして、この作中に出てくる人々のマヒロ評は、実のところかなり的確なように思われる。『人間として壊れている』『【蛇】』などなど。
彼のこの性格は、作者の意図的なものなのだろう。【戦闘要塞マスラヲ】の主人公ヒデオが、良く見るとマヒロとまるで真逆のキャラクター造形になっているのを考えると、果たして作者はこの【ミスマルカ興国物語】でどういう方向に物語を積み上げていく計画を立てているのか。
林トモアキらしく、巻を重ねるごとに世界観の巨大なバックグラウンドが垣間見えてきて、土台足場も整ってきた。この辺から加速が始まっていくのだろうけど、おそらくマスラヲとはまた違った方向に走り出すと思われるこの作品、楽しみなのは間違いない。

【お・り・が・み】との関連性も濃く見えてきた本作ですけど……長谷部の血統は、世代を経た結果、頭の中身はより一層劣化しましたか?(笑
どうやら魔人の国であるグランマーセナル帝国も、当初言われてたような人類の敵、という性格の国家ではなさそう、というのが明らかになってきたわけですけど、そうなると逆に帝国の戦争の真意が正確に伝わっていない理由や、どうして帝国がそれだけ急きたてられているのか、という謎が追随して増えてくるわけで。
とりあえず、長谷部が帝国側の将として存在してるという点だけでも、帝国が人間の敵というわけじゃないのはまず間違いないんだろうけど。
ただ【お・り・が・み】世界を引き継いでいるのだとしたら、ここで言われている魔王の存在も、単純に世界を征服する存在、破滅に導く存在ではない、ということが分かっているわけで、まだまだこの世界、いったいあれからどういう再構成がなされたのか、真相は闇の中ですか。