ガンパレード・マーチ九州奪還 2 (2) (電撃文庫 J 17-20)

【ガンパレード・マーチ 九州奪還2】 榊涼介/きむらじゅんこ 電撃ゲーム文庫


九州に上陸した人類軍。幻獣軍の抵抗はまったくの微弱であり、九州派遣軍は実質わずか一日で福岡市街の確保に成功する。この破竹の進撃と幻獣軍の沈黙に目がくらんだ派遣軍司令部は、政府に介入させる形で一気に熊本までの侵攻を企図するのだが……。
政治が軍略に口を出した時の典型的破局パターン。しかも、今回は派遣軍司令部が直接政府に働きかけて、というどうしようもなく最低の形での暴走。
せめて現場レベルで意志統一がなされてたら、上からの命令にも何らかの対処ができるんだろうけど、現場司令部が現状を認識していないとなると目を覆う惨状になってしまう。
ただ、これは現場司令部の愚かさが招いた惨状であることは間違いないんだけど、実際にその渦中に置かれた場合に客観的な判断が誰でもできるかというと、なかなかそうもいかないもんなんですよね。
実際、幻獣軍の状況もしっかり固めず、せっかく確保した福岡という足場も固めず一気に熊本まで進撃することで、補給路が伸びてしまい横っ腹から伏撃を受けたら九州派遣軍全体があっさり瓦解しかねない、というのは小学生でもわかる展開だと作中で語られ、末端の兵士までもその危惧は広がっている描写と並行して、先鋒をきって進軍する第三師団、第三戦車師団では快進撃に既に幻獣軍は完全に岩国会戦で壊滅したという楽観的観測が広がっていくのも描写されている。なにしろ、山口・岩国防衛戦で、5121小隊と協調してあれほど戦果を稼いだあの名将、矢吹少佐ですら楽観的観測に侵されていく姿が描かれているのだ。
置かれている立ち位置によって、視点というのはどうしてもズレが生じてくる。
いや、だからこそ作戦を決定する司令部は常に俯瞰的視点を確保し、冷静に戦況を判断しなければいけないのだから、善行たちの指摘を無視して政治的策略を持って無謀な攻勢を決定し、兵を死地に放り込んだ司令部は万死に値するわけだ。
最初から味方の壊走を想定して準備を整えなくてはならなくなった善行たちの苦渋たるや、忸怩たるものがあるだろう。
それが失策とわかっているのに止められず、むざむざと味方の将兵が地獄に突き進んでいるのを理解しつつ、それを無くすのではなく犠牲を少しでも少なくする手当を、まだ戦いが始まる前からしなければならないというのだから。しかも、その被害軽減のためには自分の仲間たちである芝村支隊を含めた大切な麾下の部隊を最悪の戦場に送り込まなければならないのだから。
この巻のラストで、青木さんの提言があったからといって彼がああした行動に出たのは、そうした忸怩たる想いに突き動かされたものもあったのだろう。

それにしても、5121小隊の面々の仲間意識の強さには、なんだか涙すら出てきそうになってきた。最初はけっこうバラバラだったのになあ。立場が変わり、役割が変わり、初々しかった彼らも泥沼のような戦争の沼にどっぷりと肩まで浸かり、もはやその狂気から抜け出せなくなってきている。だからこそ、お互いを思いやる心、助けあう気持ちはより一層強くなってきているのだろうか。
なんかもう、狂気に侵され一番危なっかしかった厚志も、今回森の状態に直面し、茜や瀬戸口の友誼を受けて、最悪の展開を回避した感がある。まあそもそも、森ちゃんの様子を見て自分で自分のあり様に気づけるあたり、あっちゃんも大丈夫だったんだろうけど。初期の完全な危険人物的思考からしたら、森の状態を見てそんな思いを抱けるという自体が、彼の成長を示すことになるんでしょうが。徐々に舞だけだったところから滝川や壬生屋たちパイロット仲間に対して広がっていった、他人を想う意識はもう完全に5121小隊の仲間全体に広がり、今や戦場を同じくする他の部隊の人たちにも広がっている。最初の厚志の内面を知っている身とすると、これは感慨深い変化ですねえ。
狂気を分かち合う、か。このやりとりはちょっと泣きそうになった。
舞も、山口戦に引き続き、芝村支隊を率いるようになって人間としても指揮官としても成長著しいし。
いや、気がつくとはじめのころと比べたら、みんなだいぶ変わったわ。それでいて、瀬戸口が呟くように、彼らの変わるべきでないところは何も変わってない。彼らは彼ららしくあり続けてる。感慨深いなあ。
でも、変わらないからこそ限界に達してしまった人もいるわけで……。以前の原さんの時もそうだけど、今回の森さんの精神の限界の描写、糸が今にも切れそうな様子の描き方は、本当に秀逸。
くそ、みんなイイやつらだ。

オリキャラの面々もますます意気軒高。佐藤ちゃんなんかイキイキしてるし、合田小隊も出てくるとなんか安心してしまいます。とはいえ、みんなヤバいところで綱渡りしているのは相変わらずなんですが。
今回出てきた鷺宮少将って、なんか名前に見覚えがあるなあと思ったら、ガンパレオーケストラの中国戦線で出てきた猛獣使いの連中の上役かぁ。この人、九州でも敵中に孤立してたのかあ。めげそうになりつつも踏ん張る辺りに、のちの良将としての成長の過程を見る思いです。……まあ中国戦線でも良将といえる活躍をしてたかは見解が色々あるでしょうけど、兵からしたらイイ将としてやってってるのかな?

快進撃から一転、破滅的展開へと逆転してしまった今巻。サブタイトルの九州奪還など夢のまた夢なのか。
幻獣軍側のかつてとの状態の変化も語られつつつ、5121小隊を中核とする芝村支隊は再び地獄と化した戦場を闊歩する。
善行司令官を襲った奇禍も合わさり、事態はさらなる混迷へと!!

しかし、5121小隊って物凄い人材が集まってるわけですけど、地味に一番洒落にならない活躍してるのって、加藤ちゃんだよなあと思う今日この頃。小隊の事務官やってたころから物資の調達の腕前は並外れてたけど、今の彼女の快刀乱麻な仕事ぶりはちょっと尋常じゃないレベルです。彼女、扱う部隊の規模が大きくなるほど乗数的に能力がでたらめに発揮されるタイプなんじゃないだろうか。すご……。