神様のメモ帳 3 (3) (電撃文庫 す 9-8)

【神様のメモ帳 3】 杉井光/岸田メル 電撃文庫


そうか……あのナルミも大切なもの、守りたいものを見つけたんだなあ。誰かのためじゃなく、自分がそう望むため、こぶしを握る探偵助手ナルミ。
この子はこのままずっと受け身に物事と向かい合い、なんとか折り合いをつけてゆっくりと前に進む子なんだと思っていたのだけれど、この巻で見せた彼の行動はまるで違っていてびっくりした。そして、胸が熱くなった。
君は、今間違いなくカッコいいよ。
戻ってきた彩夏との以前とは違う関係、降って湧いてきた園芸部廃部の動きに、仲間と信じていたテツ先輩の信じたくない過去。戸惑い、迷い、ためらい、悩みながら、苦しみながら、ナルミが選んだのは立ち止まり、眼の前の突きつけられた現実を受け止め飲み下すことではなく、わからないまま迷いながら、それでも自分の心が導く方へ、敢然と突き進むことだった。
四代目やテツのように強くもなく、アリスのように物事を解する頭を持っているわけでもない。それでも、彼はそのか弱くなんの力もない存在の全てを使って、自分の信じた道を行く。戦いの道を。決意の道を。自分が信じたものが正しいことを証明するために、自分が望んだ光景を実現するために。
やがて、自分のやっていることが彩夏のためじゃなく、なにより自分のためであることに気付くナルミ。言葉も拙く、誰かに正しく想いを伝えることも苦手で、それ以前に自分が何を考えているかも論理的にわかっていないあやふやで不器用な自分の在り様に歯噛みしながらも、それに拗ねることも膝を折ることもなく、諦めず見っとも無くも、無様ながらも戦うことを選ぶナルミ。
どうしてこんな少年をアリスが気にかけ、四代目やニートたちが大切な仲間と認めているのか、嫌というほどわかった気がする。
その場で動かず立ち止まってしまいそうな彼らを、今回ひっぱり突き動かし、導いたのは間違いなく、この弱くて頭が悪くて大人しく自信なさげなナルミという少年だった。
傍目での無様さが、どうしようもなく、身震いするほど格好良かった。誰にも否定できない。今回の彼は、間違いなく漢だった。惚れた。
今なら四代目のところの連中に兄貴と呼ばれ尊敬されるのも、分不相応とは思わない。
決して行動力があるとかパワフルとはかけ離れたキャラだと思ってたのに、それどころか後ろ向きでいつも現実から逃げだしたくて仕方がないやつだと思ってたのに……成長したんだなあ。
その彼に影響されるように、周りのニートたちも少しずつ変わってきているような気がする。そのナルミが憧れ、好きになった奔放なあり様はそのままに。
そして、アリスも。
一番大きく変わってきているのは、きっとアリスなんだろう。最初にナルミが関わったころより、探偵助手として彼が傍で彼女に引っかき回され、逆に彼女を引っ張り回すことで、アリスが世界を見る目は少しずつ色と匂いを増しているような気がする。
加えて戻ってきた彩夏。深い心の傷を負い、記憶を失い、それでも戻ってきた彼女。失われた自分との関係を大切に思い、そのために傷つくナルミの姿に自分もまた傷つき、でもやがて過去ではなく彼が今の自分をちゃんと見ていてくれたのだと知った彼女は、今の自分との関係を守るためにボロボロになるのを厭わなかった彼の背中を見送った彼女は、いったい何を思ったのだろう。
アリスと彩夏とナルミ。恋愛としての関係を透かし見るには、彼らの関係はどこか儚く、深く繋がり過ぎているようにも思えるけど、それでも人が人に惹かれるのは自然な流れ。いつか、そういう関係を彼らが意識することはあるのかもしれない。でも、それはまだ先の話なのかも。彼らの関係は、あまりに近く、遠く、安らぎの中に浸っているのから。