SHI-NO-シノ-空色の未来図 (富士見ミステリー文庫 76-8)

【SHI−NO 空色の未来図】 上月雨音/東条さかな 富士見ミステリー文庫


今回は異常によくしゃべってたな、志乃ちゃんは。むしろ、この子は『僕』の傍にいる時の方が無口なのかもしれない。喋らなくても分かってくれるもんね。
ということで、今回は殆ど『僕』と志乃ちゃんは別行動。既に亡くなっているはずの<元カノ>から来た年賀状からはじまる、『僕』の過去にまつわる人間関係の清算がメインとなるため、あくまで主人公は『僕』。
予定にない『僕』の突発的な実家への長期逗留に、心配になって来てしまう志乃ちゃんはじめキララ先輩に真白ちゃんの三人組。
志乃ちゃんって、世間に対する無関心・無感動の度合いからすると『僕』への執着はこれ、かなり異常なくらいなんですよね。好意というどころではなく、彼女にとっての価値ある世界とは『僕』以外に存在しないんじゃないかというくらいに。
ただ、今回の微妙な志乃ちゃんの言動や反応を見てると、普通の恋する女の子みたいな部分も介在してきて、それが同時に志乃という完全にして危険極まりない存在に入った破綻に至る亀裂みたいな表現もされていて、微笑ましいエピソードもなんだか不安を煽るような形になってるんですよね、むむむ。
今回のエピソードとは一体なんだったのか。
主体としては妹の幸せを願った一人の未来予知能力者の少女の策略と想いなんですけど、同時に彼女――詩葉は『僕』と志乃がいずれ直面するのであろう問題か事件に対しても重要な布石を敷いている。それは『僕』への好意の表れなのか、自らの願いとその後始末をつけてくれた『僕』への報酬だったのか。
なんにせよ、この事件を通じて『僕』が抱くに至った決意と覚悟は、椎葉が『僕』がそれを得られるように仕組んだものである。そして、それらは『僕』と志乃の二人にとって破滅を回避するために、必ず必要となるものなのだろう。
だが、それらを与えた椎葉が得たものはなんだったのだろう。彼女はあまりにも多くのものを、彼女が大切に思った人々に与え、遺し、だが自らはあまりに報いの少ない末路をたどった。いや、自ら望んでその道を進んだ。それはまるで神様のような所業で、だからこそ哀しい。
そんな彼女が、幼馴染の彼にだけは何も残さず、ただ傷痕だけを刻んで去っていったのはなぜなんだろうと読み終えた後考え……なんとなく、それだけ彼に対してだけは、甘えや我儘、自分と言う存在の呪縛みたいなものをかけたかったんじゃないかなあ、と。彼だけが特別だったんじゃないかなあ、とふと思い、少しだけ彼女に対して安堵の気持ちを覚えた。
まあ、そんな呪縛に縛られて取り返しのつかないことになる前に、ちゃんと呪を解いてやる手段を用意しているあたり、やっぱり酷い女だと思うわけだけど。