シフト 1―世界はクリアを待っている (1) (電撃文庫 う 1-20)

【シフト 1 世界はクリアを待っている】 うえお久光/STS 電撃文庫



睡眠睡眠睡眠不足♪
ええ、御蔭さまでわずか二時間の睡眠時間で炎天下、労働に向かう羽目になりましたよ、ええ。
寝る前にちょっとさわりだけでも読んでみようか、なんて思ってしまったのが運のつき。三巻出るまで、と置いておいたこの【シフト】を手にとって……気がついたら午前四時。
いえ、嘘です。気がついたら、じゃありません。ちゃんと時計は見てました。刻々と減っていく睡眠時間を横目に見ながら、止まるに止まれないページをめくる手。明日の仕事を考えたらいい加減限界突破している時刻とわかりながら、さらに二巻にまで手が伸びて……。
ええ、そうです、その通りです。自制さえしていれば、翌日半死半生、ふらふらの熱中症寸前状態に陥ることはなかったでしょう。

でもね、

自制なんて知ったことかぃ!!

だって面白かったんだもの。めちゃくちゃ面白かったんだもの。こんな面白いもん途中でほったらかして眠れるか!!

というわけで、最初は単行本で刊行され、このたび文庫化加筆修正してきたうえお久光氏の新シリーズ。

一部の若者たちの間で起こった不思議な現象――眠るとRPG(ロール・プレイング・ゲーム)にも似たファンタジー世界へ《シフト》し、そこでもう一つの生活を送る。なぜこの現象が起こるのかは分からない。たった一つのヒントは、《シフト》する時に聞こえる「世界はクリアを待っている」という言葉だけだった……。「現実世界」と「シフト世界」、眠るたびに二つの世界を行き来する少年少女たちの日常と冒険を描く。


このあらすじを読んだ時は、【.hack】シリーズみたいなネットゲーム的な話かと思ってたんですが、読み進めているうちに「シフト世界」がゲームとして楽しむ世界とはまったく別の代物だということが、登場人物たちの懊悩によってわかってくる。
シフト世界は、ゲームとして楽しむ場所ではなく、生きる場所。それも、社会や法律といった人が人として生きるために必要なルールが確立されておらず、各々の力だけが優先される無法地帯。そして、ゲームのようにプレイヤーが自由意思で行き来できる場所ではなく、強制的に放り込まれ、場合によっては何年も何十年も現実世界に戻ることが叶わない世界。
ネットゲームはいわゆるキャラクターを演じて遊ぶ世界ともいえるけど、このシフト世界はどちらかというと人が社会の中で生きるために誰もが何かしら演じている部分をかなぐり捨てた己が本性を剥きだしにしてしまう世界なんじゃないだろうか。
恐ろしい世界である。
ゲームと違い、その世界で感じる痛み、苦しみ、死の感触は生のもの。巻の終わりの方でとある登場人物が語っているのだが、統計であちらにシフトしている人間の約3割、実際には4割近くがレイプ被害に遭っているのだという。
この物語のメインヒロインの一人であるセラも未遂ではあるが、かなりヒドイ目にあわされ、精神に拭えぬ傷を負っている。まあ、それを感じさせないくらいひたむきでまっすぐな子なんですが。
ラケルが気にかけるのも無理はないなあ。ヒロインとして、というより1個の個人として周囲を惹きつける何かを持ってる。

主人公であるラケルが、またいいんだ。ヘタレっぽいけどw
いわゆる人間型ではなく、怪物系。リザードマンなんですよね。無論、人間型と違うというだけで、世界では迫害される立場。
こいつが、めちゃくちゃイイやつなんだよなあ。バカがつくほどお人好しといってもいい。第2話「勇者」のエピソードなんて、その極みといっていいでしょう。
そして、シェラザドのエピソード。

このシフト世界は巻き込まれた子供たちにとっての地獄なのか、楽園なのか。
そして、シフト世界の出来事は現実世界での彼らにとっても無視できない変化と影響を及ぼしていく。夢と現実、だけど両者の記憶がある以上、それは決して無関係とは言えないんですよね。心の傷は傷として残り、人を殺した記憶は失われず、憎悪や憤怒という負の思いもまた、消せずに燃えたぎる。

2巻では、その軋みがまた描かれていくわけだ。