俺の妹がこんなに可愛いわけがない (電撃文庫 (1639))

【俺の妹がこんなに可愛いわけがない】 伏見つかさ/かんざきひろ 電撃文庫


……あ、あは、あはは。これ、すげえわ。
ごめん、正直舐めてた、見縊ってた。もっとこう、あらすじからしてももともと別段仲も良くなかった兄妹が、ふとしたことから急接近してドタバタラブコメな展開に陥るようなものだと思い込んでた。
伏見さんの作品は波長が合うかして、前作の【十三番目のアリス】(続きでないの?)も、かなりお気に入りの作品だったので、そういう系統の話でもどんと来いってな感じで十分楽しめるつもりだったのだけど。
まいった。これはまいった。挙句にラストのあれは、凄まじかった。しかも挿絵つき。
完敗である。まさにタイトル通り、俺の妹がこんなに可愛いわけがない、だ。読者的見地から意訳して描き直すならこうか?

【リアル妹がこんなに可愛いわけがない】

この妹・桐乃。恐ろしく生々しい。兄貴に対する態度とか、もう徹頭徹尾、邪険にした態度と言い、言葉づかいといい、シカト上等、生ゴミでも見るかのような視線。これぞ現実の妹さんである。ツンデレじゃね? とかいうのはあり得ないから期待してはいけない。リアルな妹さんはそういう概念で括ってはいけないのである。
とある事情から、まともに喋りもしない妹に人生相談をされるはめとなり、そのとある事情を通じてのことについては交流が生まれることになるのだけれど、だからといって妹さんの態度が変わることはありません。相変わらず、こっちは読者だってのにこの妹さんの態度には身の竦む思いでありンス。
……いや、私には妹いないですけどね。
そんなリアル妹であるからして、いわゆるスラング的な言い方をするところの萌え要素なんてのは、最後の最後まで一切ないわけですよ。もう、生々しいくらいにそのまんま、妹。

だからこそ、最後の最後にこの言葉をぽかーんと頭真っ白になりながらつぶやくしかないのですよ。

【俺の妹がこんなに可愛いわけがない】

正直、このタイトル見た時は、これタイトルだけで勝ったも同然だな、と思ったものですが、いやはや、読み終えた今となってはこの作品にはこれ以外のタイトルなんてありえないですよ。
誰ですか、この至高にして究極のタイトルを思いついたのは。
最高だよ、アンタ。


いや、それにしても主人公であるこの兄ちゃんは、本気で尊敬に値する。
内心で呟いている言葉と言えば、小憎たらしくて可愛げのない妹への文句とだるそうなやる気のなさと面倒事への忌避感ばかりなのに、実際の行動ときたら……。
いや、これが本心であるからこそ、彼の行動に尊敬を覚えるのだ。ベタベタと近すぎず、そっけないくらいに距離を置きながら、不意に頼られたとき、いざというときにこいつ、なんだかんだと助けの手を差し伸べるんですよね。
各エピソードが、決して突飛なものではなく、日常生活で有り得そうなことばかりなのが、逆に想起させるんですよ。
はたして、自分はこんな時、この男のように家族のために動くことができるんだろうか、と。
困ってる妹を助けてやれるのか。怒り狂ってる親父に、真っ向から意見できるのか。
身近な問題なだけに、余計に身につまされるんですよね。それだけに、地球を救うわけでも恋人のために命を賭けるわけでもない、でも妹のために行動したこの兄ちゃんは、めちゃめちゃ尊敬の念を覚えるのです。
かっっっこえええぜ、兄ちゃん!!

それにしても、繰り返すけどこの作品、生々しいですわぁ。ライトノベルか、これ(苦笑
いやいや、実にコメディタッチで筆調もライトノベルらしいんですけどね。
妹の生々しさだけじゃなくて、桐乃の兄貴に宿題を出そうというあの感情とか、思考パターンとか。喫茶店での彼女の態度とか、二次会での最初のころの微妙な反応とか。怯えに似た不安とか、行き場のない怒り、悔しさ。口に出して言えなかった自分への情けなさとか。
生々しすぎて、痛痒いくらいに。
なんかもう、身に沁みるくらいにわかるので、痛いやら痒いやら、わかるだろうか、このいたたまれなさを。

……しかし、こうして振り返ってみると、やっぱり桐乃は決して兄貴を嫌っているわけじゃないみたいなんですよね。いくらバレたからって、あの場面で付いてきて、ただ見てくれているだけでいい、と思うのは単純な血縁、兄妹だから、というだけの信頼感ではないように思う。
それに、幼馴染の麻奈美のこと、嫌いなのかと聞かれたときの返答、あれってかなりアレだよね?ww

うわぁぁぁ、それにしても面白かった。これは面白かったですよ。これはちょっと、話題の一冊になるんじゃないでしょうか。
【俺の妹がこんなに可愛いわけがない】……ホントに素晴らしいタイトルだな、これ。
ラストの展開、挿絵は本気で凶悪です。
ひゃっほぅい!!