カラクリ荘の異人たち 2 ~お月さんいくつ、十三ななつ~ (GA文庫 し 3-2)

【カラクリ荘の異人たち 2.お月さんいくつ、十三ななつ】 霜島ケイ/ミギー GA文庫


表紙の花は、作中でも重要な役割を担うことになる彼岸花ですか。この花も、なんか見た目からして不可思議な花ですよね。この世のものから少し外れたもののように見えるのは、そういう逸話を知っているからそう見えるのか。

他人とのコミュニケーションってのは、ほとんどの人間に強いられることながら、決して誰でも簡単に出来ることではありません。
この作品の主人公である太一は、過去に両親に負わされたトラウマもあり、会話する相手の考えていることが理解できず、うまく会話できないという自覚があります。
会話はキャッチボール、という有名な言葉がありますけど、この子の場合は相手の球を上手く受けることも、相手のミットに投げ返すことも上手く出来ない、ということになるんでしょうね。
それはもう、仕方のないことなんだ、と太一は思っていて、半ば他人と付き合うことを諦めてしまっています。
それがね、そんな太一の姿勢が、読んでて何となく気に食わなかった。別に、コミュニケーションが上手くとれないってのは、仕方無いと思うんですよ。出来ないもんはできないし、そんな自分を受け入れるのも別に悪いこっちゃないと思う。
ただ、うーん、何て言うんだろう。上手くコミュニケーションをとれないことに関して、どこか自分は悪くない、みたいに思っているように見えたんですよね。いや、だからと言って自分以外の他人が悪いんだ、と言ってるわけではないし、心の声では自分が悪いみたいな事を言ってるんですけど。
でも、采菜の積極的で真摯なアプローチに対しての、あのどこか他人ごとな態度を見てるとね。君、それは結局君が他人と会話を交わすことに興味がなかったというだけなんじゃ、と。
空栗荘の人たちとはうまく会話できるのに、という独白。傍から見てる分には、別に空栗荘の人たちは、クラスメイト、特に采菜たちが話しかけてきた会話の内容とそれほどかけ離れたことを喋ってるようには見えないんですよね。なのに、なんで采菜との会話は上手く出来なくて、空栗荘の人たちとは楽に自分の言葉でしゃべれるのか。それは、単純に太一が空栗荘の人たちとちゃんと話をしたいと思ってるから、彼らが何を考えているのか、何を思って会話しているのか、それを太一が想像し、理解しようと頑張ってるから、普通に会話できるんじゃないかと、思ったんですよ。
なら、他の人と太一が普通にうまく会話できないのは? 最初から相手の喋ってる事を理解しようとしてないから、話そう、会話をかわそうという気がなかったからなんじゃないでしょうか。
聞く気がないのに、話す気がないのに、理解する気がないのに、わからない、理解できない、話せない、なんてため息をつくのは、なんか……腹が立ったんですよね。
なにさまだ、てめえ、と(笑

多分、現世と<あちら側>の境界を越えて、こちらに背を向けて<あちら側>に行ってしまう人々というのは、この太一みたいな人なんでしょう。
ただ、太一は空栗荘の人たちと出会い、あやかしたちと出逢うことで、人とかかわることに関心を持ち、過去のトラウマによって止まってしまっていた心に、脈動が生まれ始めているわけです。
冒頭では采菜と話していても、彼女が何を言いたいのか、何を伝えたいのかわからず、というか関心がなく、考える気もなく、わからないから謝って聞いてみよう、なんてことを思ってるわけですけど(それでも、わからないからいいや、と思わずに相手を理解しようという行動に出ようとしていること自体、彼が変わりつつあることを示しているわけですが)、その後、采菜の弟が怪異に巻き込まれる事件を通じて、采菜と行動を共にすることで、太一という少年が知りたい、話したい、理解したいと思う対象は、空栗荘の不思議な人たちだけではなく、くるくると表情の変わるクラスメイトの女の子にまで広がります。
自己に閉じこもっていた少年の世界が、こうして徐々に広がっていく。殻が融け、凍りついていた心が柔らかくなり、ゆっくりと起き上がっていくその姿は、どこか心があったかくなるんですよね。
この優しい子には、もっと世界が素晴らしくて暖かくて、優しいものなんだと知って欲しいと、切に思う。
その意味では、采菜という女の子の溌剌としてひたむきで真摯で一生懸命で、春の太陽みたいな優しくも眩しい心根は、太一少年の心を芽吹かせる何よりの光になりそうで、ほんとにイイ子なんだよなあ。
そして、そんな彼を見守る、空栗荘の大人たち。この人たちも出来た人間とは言い難いんだけど、迷子の子供を受け止めて手をつないで一緒に歩いてくれるには十分位に、子供に掛けるべき自分の言葉を持っている人たちで、素敵なんだよなあ。
特に古都子さん。
姉さんの本命がまさかあの人だったとは思わなかった。絶対、あいつら二人のどっちかか、誰にも関心なし、だと思ってたのに(笑

夕焼けの切ない記憶。
あの茜の色は、人にどうしようもないくらい懐古を抱かせ、胸を締め付ける。
この感覚を、感覚として伝えてくれるこの作者の独特の筆力は相変わらずで、なんとも感服させられる。願わくば、次は早めに、とお願いしたいところだけど。まあ、封殺鬼が優先でも全然かまわないんですけどねww