マルタ・サギーは探偵ですか?7  マイラブ (富士見ミステリー文庫 54-9)

【マルタ・サギーは探偵ですか? 7.マイラブ】 野梨原花南/すみ兵 富士見ミステリー文庫


幸せになっていいんだよ、マルタ・サギー。君は、幸せになっていいんだ。
心の底からそう思った。そう願った。
彼は、それだけの犠牲を払ってきたのだから。かけがえのない友人たちを、懐かしい故郷を捨ててまで、彼はこのオスタスの街を、マリアンヌという女性を選んだのだ。ならば、幸せになるべきだろう?
彼を弟のように可愛がった人、彼を愛してくれた人、彼を親友と言ってくれた人、彼らは自分たちの人生からマルタという掛け替えのない存在が失われることを承知しながら、心からマルタのことを思い、送りだしてくれたのだから。
犠牲を払ったのは、何もマルタ一人だけではないのだから。ならば、幸せになるのは権利ではなく、もはや義務なのだろう。
だから、マルタは我を通すべきだったのだ。マリアンヌを自分の業に巻き込む事を、新たに出来た親友を裏切ることを、敢えて選択すべきだったのだ。
大丈夫、マリアンヌは、名探偵マルタ・サギーの永遠のライバルであるドクトル・バーチは、そんなやわなタマじゃあないのだから。
彼女こそ、マルタをどんな地獄からでもひっぱりあげ、有無を言わさず幸せにしてくれるパワー・オブ・ラブに満ち溢れた人だから。

誰かを好きだということは、愛しているという想いは、とてもたくさんの人を傷つけ、苦しみを残すものかもしれないけど、でもそれ以上に、とても素敵で、傷つき苦しむ人たちにさえ切なさとともに幸せな気持ちを残してくれる素晴らしい心の在り方なのだと、野梨原さんの作品を読んでいると特にそう思う。
愛してる!
それは素面で叫ぶにはとても気恥ずかしい言葉なのだろうけど、でもやっぱりその言葉は発するだけで世界中をキラキラの光に包み込み、あったかくも涼やかな心地にさせてくれる、きっと最高の言葉なのだろう。
この人の書く愛の物語には、その輝きが目一杯に詰め込まれていて、そのピカピカはページをめくるたびに、文字を一つ一つ追うたびに、噴水みたいに勢いよく噴き出してくる。それを浴びると、どれほど落ち込んでいても、暗い憂鬱な気分に苛まれていても、自然と元気が身体の芯から湧き出してくるのだ。

お幸せに。いつまでもお元気で。
この人の書く物語の完結を読み終えたあとの感慨を、いつものように抱きつつ――