ANGEL+DIVE 2 (2) (一迅社文庫 し 1-2)

【ANGEL+DIVE 2.REUNION】 十文字青/青稀シン 一迅社文庫


夏彦の欠落は、純心であるということなんだろうか。他人の気持ち、思考を推測するという行為が出来ないという以前にその概念すらなく、言葉通りの意味や表層の感情しか受け取れない。
あるがままをあるがままにしか受け取れない。そのことについて疑問すら浮かばず、疑念すら抱かず、受け入れてしまう。
まるで赤ん坊のような心、というべきか。純心無垢で、なにものにも染まっていない、ということは善悪の区別や倫理観からも逸脱しているということで、第一巻のエピローグなんかは、その心のまま成長した結果の一つの末路と言ってもいいのかもしれないけど。うーん、このような単純な解釈だと、まるで夏彦がロボットみたいな印象になってしまうんだけど、確かにこの子には優しい感情や人を想う心はあるように見えるので、なんか違うんですよね。
外からの入力に対しての処理の仕方が、普通の人間と違うのはまちがいないんだけど。

なんにせよ、こういう心の在り様って、ある程度裏表のない子供時代ならともかく、相手に対して自分でも理解しがたい複雑な情緒を抱くようになる中学生以上の思春期になると、途端コミュニケーションに支障が出てくるというのも仕方のない話。
今まで一心同体のように気心の知れた存在だった幼馴染の希有との距離が開いていく過程は、この年頃の男女の幼馴染の関係としてはむしろよくあるパターンなのかもしれないですけど、夏彦がこの疎遠になっていく関係を改善したいと考えながらも、まったくどうしたらいいのか分からなくなっているのは、彼本人の在り様の問題が大きいように思う。希有がどうして自分と距離を置きたがるのか。その複雑な感情の在り様を、彼がまったく想像できていないのだから。
一方で希有も、夏彦という特殊な子とともに成長してきた事から、いざ以心伝心が通じなくなった時に、どうコミュニケーションを取ったらいいのか、夏彦以外の友人との接触が最小限だった影響もあるのだろうけど、普通のコミュニケーションに対する経験値が圧倒的に少ないんですよね。だから、いざ自分の感情をもてあますようになった時にどうしたらいいのか分からず身動きが取れなくなってしまっている。
彼女に関しては、その感情をかき乱す原因が同じ家にいて常にプレッシャーをかけ続けられている、という可哀想な状態もあるのですが。
普通なら、ある程度この疎遠な時期をやり過ごし、それぞれが成熟した精神を得つつある高校生くらいに至れば、再び距離感は取り戻せるパターンもあろうはずなんだけど、この二人の場合はそれぞれに問題が多くあるために、もしこの巻であった決定的な亀裂を生むエピソードがなくても、いささか難しい結果になっていたかもしれない。
……いや、でも時間の経過が解決してくれた可能性は、やっぱり大きいと思うので、今回のあのエピソードはかなり厳しい結果を生むことになるのかも。希有の家があれなわけだし。

ところで、この物語のヒロインってなんだかんだ言っても本命は依慧なんですよね?
あのエキセントリックな性格や、同世代からは一段離れた大人びた判断力、異常ともいうべきビジュアル、なによしその異能力。学校での立ち位置など、彼女はとにかく<特別な存在>というイメージがあったのですけど。
ああ、この娘も普通の、まだ十五にも届かない普通の幼い、子供だったんだなあ。
出自も特別でない、普通の家庭で生まれ、普通の家族と育った普通の子供。それが、いきなり不慣れな環境に否応なく放り込まれ、それでも妹を守るために精一杯背伸びして生きてきた、頑張る普通の女の子だったわけだ。
その緊張の糸がブチンと切れてしまったのが、ある身近な大人の死。
そして、自分たちを置き去りにした父親との再会。
彼女の姉妹二人だけで生きていこうという健気な決意が、どれだけ幼い発想だったかを思い知らされる展開で、でもそれ以上にそんな幼い発想をほとんど実現させていた彼女の強さには敬服するしかない。
だからこそ、自身の幼さと弱さを突きつけられながら、それに屈することなく飲み込み、認めたうえで乗り越えた彼女の成長は眩しくて、こいつは絶対イイ女になるぜ?
無論、もし本当に彼女が妹と二人きりだったなら、今回付きつけられた現実に、彼女が立ち向かえたかは疑わしいところだ。たぶん、ポッキリと折れていただろう。
そんな限界ギリギリの場所に立たされた彼女を支えたのは、間違いなく夏彦だった。

この少年は、間違いなく人間として大事な部分が欠落しているのに、どこか不気味で非人間じみた薄気味悪さがあるくせに、確かにどこか人を惹きつけてやまない魅力があるんですよね。
工藤桜慈という第一巻のエピローグで登場した男も、この巻で登場し、なんだかんだと夏彦と遭遇するうちに、夏彦の傍に居場所みたいなものを見つけたみたいですし。
ありのままの姿をありのままに受け入れる在り様というのは、ある意味ではとても居心地のいい場所になる存在に成りえるのかもしれない。
自分を偽らずに済むし、自分を隠したければ隠したいだけ隠しておけるし、さらけだそうと思えばどんな自己嫌悪を催す姿であろうと、何の是非も好悪も表わさず、そのまま受け入れてくれるのだから。
でも、その何でも受け入れる在り様に、不満を抱くのも人間なんだよなあ。
人と人との関係は常に変化流転し続けるもの。この一年における希有との関係の変化は、そのまま他の登場人物たちとのそれにも通じ、繋がっていくわけで。
良好な関係が続いている人たちとも、今後どうなるのか不安が尽きない。
なんか、今回のエピローグでは、前巻のエピローグからまた時間がある程度経過しているらしく、なんかえらいとんでもないことになってるみたいで、だいぶ混乱させられたんだけど。
先が見えんし、読めんなあ。