葉桜が来た夏 2 (2) (電撃文庫 な 12-2)

【葉桜の来た夏 2】 夏海公司/森井しづき 電撃文庫



これは面白かった!
互いに敵意を持った異文明の少女との交流と相互理解を描いた第一巻から、一転迫真の政治謀略サスペンスに。いや、一巻の段階でその傾向はあったけど、この巻は特に後半にかけてその展開を一気に前面に押し出してきた感じ。
一人の少女を巡る日本政府・アポステリ双方の政治的攻防。いや、むしろ各々各陣営内の派閥対立によるパワーゲームが、星野智美という現在の政治状況を一気に激変させる政治的爆弾となりうる存在を引き金にして激化したというべきか。
この作者、もともとこの手の描写に相当のセンスがあったんじゃないだろうか。組織内によるパワーゲーム、明確な指揮系統が見えてこない非公式の暗闘、セクション同士の横の繋がりの欠如と軋轢。派閥抗争と、それに乗じた個人の独断専行。
主体的視点は、逃亡する星野智美に巻き込まれ一緒に逃げ回る羽目になった学と葉桜にあてられることになるんだけど、その外側で彼らを追い詰めるように蠢く様々な思惑が、非常に重厚な重みとなって圧し掛かってくる。その薄暗くも巨大で抗しがたい圧迫感が素晴らしい。
こういう政府レベルの大組織の重苦しい存在感を描ける人って、この業界意外となかなかいないので、新鮮でしたね。
なにより、クライマックスの主人公の見事なタフネゴシエーション。
これが凄まじかった。
そもそも何の権限も影響力も持たない一般人の立場から、交渉相手として自身の存在を相手に認めさせ、相手が置かれている状況、集団内での立ち位置をこれまでの行動から暴きだし、ブラフと自分の持ちえるカードを最大限に駆使して自分の主張を認めさせた上で、追い詰められた相手がテーブルをひっくり返そうとしてると見るや、攻撃材料であったカードをさらに広げてそれが相手にもプラスとなる材料であることを提示して妥協を引き出し、結果的に八方丸く収めた上で、元々の達成目標を手中に収める。
終わってみれば圧巻の手練手管。読んでるこっちもポカーンとさせられ、我に帰るや興奮の坩堝に叩き込まれました。
いやいや、ここまで見事な交渉術を見せられたのは、ライトノベル界隈ではちょっと記憶にありません。
この手の場面だと、だいたい感情に任せて力押しして、無理矢理に状況をねじ伏せる、言ってしまえば人の良心には忠実で美しくも、現実を無視した稚拙で強引でしかないまとめ方になってしまうことが多いのですが。
いやはや、これには感服させられました。
この主人公、目茶目茶厳しい。ただ泣いて助けてと請う少女に無条件に手を伸ばすのではなく、彼のやったことは助かりたければ自分で出来ることを全力でやれ、と突き放すこと。でも、単に突き放すのではなく、彼女が必死で頑張れば何とか出来る場を、あの絶望的な状況からちゃんと作ってるんですよね。ちょっとでも彼女が努力を怠れば身の破滅を招くかもしれないけど、彼女が生き残るための努力を惜しまないなら自分の居場所を作れるという状況を、こじ開けてみせた。それはとてつもなく厳しいけれど、親愛のこもった優しさが目一杯詰まってて、ちょっと不覚にも感動してしまった。

なんにせよ、この主人公、今後とも目が離せない。
葉桜との関係も、なんだかんだとお互い自覚モードに入ったみたいだし、次の巻もかなり楽しみですヨ。