恋のドレスと約束の手紙 (コバルト文庫 あ 16-21 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー)

【ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと約束の手紙】 青木祐子/あき コバルト文庫


うわあ、なんだこの不安感は。先行きがどうしても破綻しか思い浮かばない。
何度もすれ違いと錯誤を重ねながらも、ようやくお互いの気持ちを確かめあったシャーロックとクリス。作中で交わされる手紙のやり取りは、二人の純粋な気持ちが通じ合い、高まっていく様子が如実に浮き彫りにされていて、とても甘く蕩けた雰囲気を伴っているのですが。
二人が恋心を募らせていけばいくほど、これまで二人が感じていた初めての恋への戸惑いや身分差への恐れ、そういった歯止めが徐々に徐々になくなってきている感じがするんですよね。
特にシャーロックなんか、自らの立場に対する理性を抑えきれない熱情が焼き焦がし始めている感がある。クリスもクリスで、段々と周りが見えなくなっているような。恋することを通じて、内気な性格が改善されてきているのはいいんだけど、一人で母親や闇のドレスにまつわる一連の影に一人で向かおうとするのは強さじゃなくて、無謀のように見える。

二人の関係について、パメラの視点が一番彼ら二人のことを思いながら、感覚としてその危うい状態を素直にとらえているのではないでしょうか。
二人が上手くいくように願いながらも、このままでは二人はどこかで息詰まるか、堰を切るように破滅しそうな、そんな危うさを漠然と感じているような。だからか、二人の気持ちが通じ合っていく様を、どこか祝福よりも不安を抱きながら見守っている。
身分や生活や、そういった俗事を離れた、純粋にクリスの親友としての立場からの視点だからこそ、彼女の不安はダイレクトに読者の私にも伝わってくるんですよね。
シャーロックは生まれながらの貴族であり、それ以外の生き方なんて彼には絶対無理だろうし。クリスだってとても貴族の妻として生きていけるような人間ではないわけで。貴族階級と労働階級という身分差を越えた愛を貫けるのかどうか。貫いたところで、不幸な結末、悲惨な破綻を迎えるしかないようにすら見える。ならば、モワティエ侯爵の提案は現状では最善であるとすら思えてくるんですよね。でも、愛人、囲い妾という立場はやはり後ろ暗いもので、モワティエ侯爵の愛人だったアップルの母親は、果たして幸せだったのかを考えると……。
道ならぬ恋、なんだよなあ。
シャーロックとクリス、二人のただ何もせずとも満ち足りていく恋が素晴らしいだけに、儚く危ういその恋の行く末には、暗雲が立ち込めているようにしか見えない。
ただでさえ、リンダやコルベール、闇のドレスという難題がクリスの前には横たわっているのに。

だからこそ、パメラには確実に幸せになって欲しいんですよね。お互いに夢中なシャーリーとクリスと違い、二人を心配し自分のことは後回しにしてでも、一生懸命手助けしてくれるパメラ。
そんな彼女の心根の優しさを、見た目の派手さ華やかさに惑わされず、しっかりと彼女の本質を見抜き認めて彼女に好意を抱く男性が二人もいるわけで。
いやでも、アントニーも善良でひたむきでいい男なんだけど、やっぱりイアン先生の圧倒的な包容力にはかなわんよなあ。三十男を見くびるなよ(笑
考えてみると、パメラってあれでまだ17、8歳なわけで、年の差とか凄いんだよね。普段からイアン先生、パメラに対して常にレディに対しての丁寧な物腰を崩さないから気づかないけど。