とらドラ 9 (9) (電撃文庫 た 20-12)

【とらドラ 9】 竹宮ゆゆこ/ヤス 電撃文庫

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悔しいが、これはもう最高評価を呈するより他がない出来栄え。
冴え冴えとすらしている冷徹な作者視点に圧倒された。普通、登場人物の内面をえぐるように描写を斬り込んでいくと、一種の感情移入というかその人物を書き切ることに熱を帯び、正の方向にしても負の方向にしても、過剰なくらいのめり込んでいく場合って多いと思うんですよね。それが悪いってわけじゃないですよ。むしろ、傑作と呼ぶにふさわしい作品には、そうしたキャラクターへの没頭、狂熱的な対決姿勢を持ってそのキャラクターの真の姿、奥に秘められた正体、本性みたいなものを浮き彫りにすることで、読む方が圧倒されるようなパワーを噴きださせることがままあるわけです。
でも、このとらドラと来たら。
いや、違うか。感じる温度が違うだけで、作者のキャラクターへの対決姿勢の熾烈さはまったく変わらないのか。
進路のこと、親との関係に悩み苛立つ竜児の心理描写は、ぞっとするくらいの等身大。さながら、実験動物の反応を前にして分析する学者のレポートのように淡々として客観的、冷徹にして現実的。過剰のカの字もなく、手加減の一つもそこには見当たらない。
そこに、怖気の走るような凄味が感じられる。甘やかしもせず、谷底にも突き落とさず、ただ淡々と現実の状況と周囲の反応を突きつけて、竜児がその時何を考え、何を想い、何に気づき、何に気づかないのかを観察し、拾い上げ、分析し、解体し、本来ならば当人が否定してしまいたいところまで、消し去ってしまいたいような部分まで余すことなく浮き彫りにし、書き記す。
そんな情景が想起される。
8巻のときにはまだ、もっと湿気があったように感じたんだけど。なんか、徹底的に削ぎ落としてきたなあ。

凄い。

泰子の言い分は、やはり勝手な言い草だと自分も思う。竜児は言い過ぎたのかもしれないけど、あの時彼が感じたであろう彼女への落胆、失望、これまでの自分の想いや苦悩を台無しにされたことへの怒りを思えば、あれは吐きだしてしまって仕方無い言葉だったんじゃないだろうかと共感する。
その人の事を尊敬し、大好きであればこそ、その人への失望は当人の心を傷つけるものなのだから。相手が自分を育ててきてくれた親ならなおさらだ。
この脱力感、自分自身の価値まで霧散してしまうような無力感、怒りや憤りを通り越して、笑いだしてしまいたくなるような粉々の心。
痛いんだよね。哀しいんだよね。

だから、逃げ出すことは、それも一つの選択だと思う。それが、叶うのならば、だけど。
でも、出来るのか? 大河は出来るだろう。この娘は徹底的に捨てられて、ないがしろにされて、親に対してほのかに抱いていた希望をも叩き潰された娘だ。
でも、竜児は、泰子を置いていけるのか? どれだけ失望しようと、裏切られようと、親を捨てるのは、難しいぜ?
寄り添う二人の、それが決定的な断裂に思える。

十代はかけがえなくとも、遠い過去だなあ……と、感慨してしまう今日この頃。