ダンタリアンの書架1 (角川スニーカー文庫 123-21)

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【幻書】と呼ばれる魔本を納める<ダンタリアンの書架>の管理者ダリアンと、書架を祖父から引き継いだ青年ヒューイを主人公に、<幻書>に魅入られた人間たちの末路をたどる短編連作集。
最近だと【付喪堂骨董店“不思議”取り扱います】シリーズみたいなタイプの話でしょうか。
ただ、付喪堂骨董店シリーズは<アンティーク>と呼ばれる不思議な道具に翻弄される人を、主人公たちは比較的積極的に助けようとしてますけど、此方のダリアンとヒューイは少しスタンスが違う風なんですよね。
【幻書】と呼ばれる魔本を管理、回収しているこの二人、実のところ幻書に魅入られ、持ち主が人としての境界を越えてしまうことを防ごうという意思がどうにも見受けられない。そもそも、幻書が危険な代物と知りながら、それが人の手に渡ることを阻止しようとしてすらいない。どころか、貸し出しすらしてるんですよね。その結果、相手がどうなるかはあんまり考慮しているように見えない。
かと言って、別にヒューイとダリアンが悪人かと言うとそういうわけでもなさそう。第二話『血統書』でダリアンがシェズに訴えかけた言葉を読むと、人としての当たり前の良心と優しさをこの子は持ってるように見えるのです。でも、そうした優しい心を差し向ける相手というのは、それに値すると見た相手にだけなんでしょうね。幻書に魅入られ境界を越えてしまうような人間は、所詮自業自得。悪いのは書ではなく、それを扱う人間の心の弱さ、と突き放している、というべきか。
ヒューイも、とりあえず資格を持たない人間が幻書を持ってたらえらいことになるから、回収はやっときましょうよ、というスタンスは取ってるけど、けっこう冷めてるように見えるんですよね。幻書そのものに対しても、危険物という認識はあるものの、邪悪なモノ、災厄を振りまく厄介なもの、という認識はなさそう。
わりと飄々とした優男で毒にも薬にもならないような人間に見えるけど、こいつも案外一癖二癖ありそうだなあ。

ダリアン、流し読みしてるとついつい、<ダンタリアンの書架>の名前の由来になった悪魔そのもののように考えてしまうところだったのですが、ヒューイとダリアンの馴れ初めの話である第四話を読んでると、どうやら違うみたいなんですよね。むしろ彼女、殷雷とか、というよりも四海獄と同じ系統の代物みたい。容姿風貌についても、ちゃんと東洋系という描写がなされてるし。
まあ、この性格が典型的な【翠星石】で(笑
言葉使いも、そうなんじゃないかな。彼女のこまっしゃくれたキャラが好きな人は、まずハマるでしょう。

時代背景は、おそらく第一次大戦直後の大英帝国。第五話で戦略爆撃機なんて単語が出てきてたので、一瞬混乱したものの、あの話も多分、ヒューイとダリアンが出てくる他の話と時系列的には同じ時代と思われます。
複葉機の双発爆撃機なんて、第二次大戦じゃほとんど使用されてないはずですし。王都爆撃云々という話が出てるので、多分ロンドン空襲のことなのではないかと。
この五話だけ、出てくる登場人物が違うんですけど、こちらサイドの登場人物から見ると、ヒューイたちって完全悪役なんですよね。
確かに、彼女にちゃんと書の危険性について注意もせず貸し与えた結果、あの惨劇が起こっていたのなら、どうしようもなくダリアンたちが悪いと言えてしまうわけで。
二編の断章も、それだけではよく意味が分からず、まだまだこの物語、浦に何が隠れているのか、その基本構造も見えてきていないんですよね。その意味ではこの一巻、まさしくプロローグでしかないのかも。

個人的には、ちょびっとしか出番のなかったカミラに、今後もっと絡んできて欲しいかなあ。ダリアンとヒューイのコンビはよく完成されてると思いますけど、それだけに引っかき回してくれる人がいると、二人の別の面白いところが見えてきそうなだけに。