イスカリオテ (電撃文庫 さ 10-5)

【イスカリオテ】 三田誠/岸和田ロビン 電撃文庫

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獣<ベスティア>というとついつい思い出してしまうのはサンホラの【沈んだ歌姫】なわけですけど。
これって調べてみると、イタリア語みたいですけど。
さて、本作。【レンタルマギカ】に引き続き、この電撃文庫でも三田誠氏の渾身の作品が投入されてきたようで。この人、ほんとに面白い本書くようになったなあ。以前はもう少し野暮ったいイメージがあったんだけど、レンタルマギカ書いて、中盤すぎたあたりからなんか全体にガチンと階梯があがった気がする。
本作も、第一巻からこれでもかと分かりやすく鮮烈な要素を大量投入してきていて、手ぐすね引いて全力投球する気満々というのが如実に伝わってくるわけで、これは読んでるこちらもテンション上がらざるを得ない。
生きるため、自由を得るために、かつての聖戦の英雄の偽物を演じるはめになった主人公。ヒロインは出自に謎を秘めた人形の少女に、災厄と罪をその身に詰め込みながら気高く戦う健気な娘。どれもが悲劇と惨劇をまき散らす爆弾を内に秘め、嘘と虚構に身を固めながら、それでも誰かのために戦うことを選んでしまう。その選択までもすら悲劇への直滑降かもしれないと。
特に、朱鷺頭玻璃の立ち位置はかなり特殊だ。てっきり彼女が持っている秘密は、彼女本人も知らずに時限爆弾のように仕込まれ続けるものだと思いきや、本人とともに周囲の人間にとっても周知の事実になるとは。
ただ、その事実を主人公イザヤが知ってしまってことは、彼が自分の正体を何としてでも隠さないといけないという強迫観念にもつながるわけで。なにしろ、彼が偽物という事実は間違いなく、彼女が犯した罪に繋がってしまうわけで。破綻は目に見えてるもんなあ。
ただ、本当にイザヤの本物がどうなったかはわかんないんだよなあ。死んだってことになってるけど、王道路線からすると直通でラスボス路線まっしぐら、というパターンだし。でも、そうなるとラストでイザヤが見たビジョンが矛盾となってくる。いや、獣の性質からするとそこは問題にならないんだろうけど、此方も偽物、あちらも偽物じゃ微妙に盛り上がらない。やはり、本物が敵に回った方が物語的にも盛り上がり、偽物が本物となる嚆矢となるモノだし。
しかし、今のところメインヒロインはノウェムの方だわなあ。兵器にして人形。人間ではない存在、と基本的な認識はそのままに、惜しげもないそれらしくない仕草や動向の大量投入。これも、自動人形というキャラクターの王道的な魅せ方のはずだけど、アグレッシブだ。使い方が非常にアグレッシブ、その上に巧妙。この辺がヒロインの描き方がやたら上手くなったなあ、と感動してしまうところ。
導入編ということで、世界観や敵の存在、戦いの在り様、キャラクターなど見せるべき部分がたくさんあったので、全体的に動的でアクション色強めの話となってるけど、第一巻だからそれも常道。あとは人間関係をじっくり熟成させていったら一気に作品の魅力が起爆するだろうから、この人は激動の中での急進的な感情の接近もさることながら、日常のまったりとした話で人間関係をさらりじっくりと描く話も得意なはずなので、次あたりはその辺も期待。緩急自在を期待する。