烙印の紋章 2 (2) (電撃文庫 す 3-16)

【烙印の紋章 2.陰謀の都を竜は駆ける】 杉原智則/3 電撃文庫

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なーんか、読んでる間中、違和感と言うか妙な感覚に苛まれていたんですよね、この作品。感想書くにあたって色々と見直していたら、なんとなくわかってきた。
この作品、奴隷剣士が不慮の事故から死んでしまった帝国の皇子の身代わりに仕立て上げられ、その立場を利用して家族を殺された自身の復讐、奴隷剣士としての悲惨な境遇への怨念を晴らさんとする物語なんですけど。
王道的には、こうした高貴な血筋の身代わりになった主人公には、事情を全部知りながら味方になってくれるブレインが大概いるもんなんですよね。
ところが、この物語の主人公オルバの周りには、そうした頭脳労働を担当してくれる味方が一人もいないもんだから、策を巡らすのも敵方が仕掛けてきた陰謀を回避する手段を講じるのも、全部オルバ一人が手配し、手を回し、情報を集め、分析し、作戦を講じ、準備を整えなければならないわけです。
大変だよ!(笑
考えてみるとこのオルバ、頭脳労働担当だけじゃなく、まともに身近な所に味方がいないんですよ。同じ奴隷剣士仲間の事情を知っているやつは何人かいるものの、そいつらはあくまで彼の剣となって戦う立場の連中で、決して同志でもなんでもない。本当なら、もっと近しい運命共同体というべき関係にもなれるだろうけど、この二巻にはほとんど登場すらしない。
オルバはあくまで一人なのである。

思えば……なんでかこの杉原智則という人の書く物語の主人公は、みんな孤独なんですよね。過去の作品を振り返って見ても、【てのひらのエネミー】など、ヒロインですら主人公の置かれた立場もあり様も理解せず、共感せず、同じ道を歩めず、そもそも知りすらせず、すれ違って行くわけです。
この物語でもオルバはひたすらに孤独。本来なら彼を利用する立場である貴族のおっさんは、どう考えても三下で、役者不足。皇子が死んだことを秘匿して独断でオルバを身代わりに添えつけるなどという、ばれたら一族郎党皆殺しにされかねない危険な橋を渡っておきながら、具体的な動きに出る事もせず、ぐだぐだと夢想に耽っているばかり。その上、オルバに対してまったく手綱を引けてないあたり、まったく愚物としか言いようがない。
この二巻で登場したパーシルに秘密を打ち明け、味方に引きずり込んだら頼もしいことこの上なかっただろうに、このオルバは何を考えてるのか自分が皇子の影武者だという事実を伏せたまま、首根っこを押さえる形で従えるという挙に出ている。
自分に自信がないのだろうか。
この巻では、皇子としての自分と奴隷剣士としての自分の考え方、有り様がそれぞれの立場で考え事を巡らすたびに乖離が目立ちはじめ、オルバは果たして自分はいったい何者として動いているのかがわからなくなり、アイデンティティがぐらつき始めている。敵方の陰謀を阻止するのは何のためなのか。帝国を恨み憎んでいる自分が、結果的に帝国や貴族どもを助けるはめになっていることに懊悩し、かつての自分と同じ奴隷たちを仲間としてではなく手ごまとして見ている自分を嫌悪するオルバ。
自分の在り様に迷いが生じている今のオルバには、パーシルたちに素直に自分を曝け出すことができなかったのかもしれない。

そんな彼の指針となるかもしれないのは、やはりヒロインであるビリーナなのだろう。腐った貴族たちと違う、孤高で誇り高く、自分を取り巻く境遇や周りの目に屈することなく、戦い続ける幼い姫君。
その姿に反発と共感、憧憬という複雑な感情を抱きながら、いつしか彼女の存在を無視できなくなっている彼の進む道を、いつか彼女が照らし出してくれることがあるのだろうか。復讐と怨念のみで突き進む道は無明の修羅道でしかなく、彼が皇子だの奴隷剣士だのという身の上に拘らず、ただのオルバとして胸を張って戦える道があるのだとしたら、きっと彼女を守るための戦いなのだろうから、出来ればいつか、彼女と同じ道を進み、同じものを見ることが出来る場面がくればいいと願うばかり。
でも、これ書いてるのは杉原智則さんだからなあ(苦笑