〈本の姫〉は謳う 4 (4) (C・NovelsFantasia た 3-5)

【<本の姫>は謳う 4】 多崎礼/山本ヤマト C★NOVELSファンタジア

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クライマックスに入ってから、もう泣いた泣いた。純粋に素晴らしい物語を目の当たりにした感動だけで、これだけ泣けたのっていつ以来だろう。
デビュー作の【煌夜祭】でもそうだったけど、多崎礼先生の語り部としての力量は常軌を逸してる。キャラクターはそれぞれ魅力的だけど、図抜けているという程じゃないんですよね。文章も決して特徴的でも芸術的に際立っているわけでもない。ストーリーもどうだろう。眼のさめるようなとてつもないもの、というわけでもなかったと思う。
だけど、この人の手によって綴りあげられたこの作品は、【物語】という在り様において、一つの奇跡のようなものなんじゃないだろうか。
とにかく、完成度が半端ない。それでいて人工物の匂いがまるでしない。人の手が加わっていないにも関わらず、完璧な調和を得ている生態系だとか、遺伝子の螺旋構図だとか。そういう自然な完全性。だいたい、この手の構成美を突きつめた作品って、窮屈さが垣間見えてしまうものなんだけど、この物語にはそれが皆無。

これは後から考えてみるなら、定められた運命の上を走り抜ける物語だったのかもしれない。けど、読み終えすべての真実が明らかになったあとですら、そんな感動が間違っているものだと確信は揺らがない。
過去は既に終わってしまい変えようのないもの。過去と現在と未来は断絶し、常に一方方向に流れ落ちていくしかないモノ。
そんな認識を、現在において綴られるアンガスと姫の旅。過去の中のアゼザルとリバティの戦いが、終極に結実していくその物語が、粉々に打破してくれた。
過去は未来に導きを残し、未来は過去に希望をもたらす。
過去の物語と未来の物語は並列として存在し、過去が託した祈りを未来が受け取り、その未来が果たした行動によって過去が変わる。
そう、変わったのだ。
観測されていた悲劇と滅亡は、アンガスと愉快な仲間たち(涙)の生きざまによって覆され、絶望の淵に終わるはずだった過去の物語は祝福を得る事となる。
時間の概念からも解き放たれた、これはきっと本当の自由を勝ち取る物語。その奇跡的な調和のとれた、美しく素晴らしい物語に、今もなお感動がおさまらない。泣けてくる。

素敵な時間でした。素敵な出会いでした。
アンガス、セラ、ジョニー。姫。アゼザル。クロウ。その他にもこの物語に生きていたすべての人々の幸いを願います。
そして、逝ってしまった多くの大切な人々の安らかな眠りと夢を願いつつ。

大傑作でした。