翼の帰る処 上 (1) (幻狼FANTASIA NOVELS S 1-1)

【翼の帰る処(上)】 妹尾ゆふ子/ことき 幻狼ファンタジアノベルス

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これはまたべらぼうに面白かったですよ!!

派閥争いに巻き込まれ、帝国領内でも放置区などと呼ばれている辺境の地・北嶺へと左遷されてしまった主人公のヤエト、三十路過ぎ。でも、この人、根っから出世に興味などなく、左遷されたことすら悠々自適に過ごせると喜ぶくらい。もともと、幼少の頃から病弱で長く生きられないと言われてきたからか、俗世に執着が薄く、隠居したいと公言してはばからない。実際、かなりの虚弱体質で、作中でも階段の上り下りだけで体調を崩したり、ちょっと無理をするとすぐに顔色を悪くして熱を出すわ吐くわ倒れるわと、フラフラしっぱなし。
そんな悠々自適の隠居生活を夢見て北の地に尚書官として赴任したヤエトでしたが、何の因果か直後に皇帝の末娘である僅か14歳の皇女殿下が北嶺の太守として赴任してきて、北嶺の地で唯一地元の人間ではなく、帝国中枢から派遣されてきた官僚だったヤエトが、太守の副官に任命され、望まぬ栄達を得てしまう。
以降、ヤエトのもとには気位の高い皇女殿下と帝国騎士団、純朴で思慮に欠けた北嶺の民が巻き起こす問題の数々が、一手に押し寄せて来る羽目に。
内心面倒くさい、知るか馬鹿、などとため息をついたりブチ切れたりしながら、勝気な上司と考え無しの部下に挟まれ、気苦労の絶えないこのまま過労死しかねないヤエトの明日はどっちだ、的なお話(笑

とはいえ、出世願望のないヤエトにある意味怖いものはないので、本来なら雲上の存在である皇女に対してもズケズケと直言して憚らず、蛮族と言っても過言ではない北嶺の民に対しても、怯むことなく言うべきことはきっちりと言い切る恐れ知らずでもあるわけで。ルービン騎士団長いわく、無駄なところで怖いもの知らず、なんですよね。
その上、面倒くさいとか、厄介事には関わりたくない、と常に陰気くさく根暗そうに鬱々と内心愚痴をこぼしまくってるのに、なんだかんだと真面目に役目を果たし、持ちこまれる問題を片付けていくものだから、結局のところ上役からも部下からも信頼されて、さらに頼られていき仕事が増えるはめに。本人の希望とは裏腹にw

ただ、ヤエト本人が思っているほど、彼の立場は不幸でも悲惨でもないんですよね。皇女は多少傲慢で人の言うことに耳を貸そうとしない人だけど、理を以って説けば唇をとがらせながらもしっかりと聞き届けなくては済ませない明晰さ、聡明さを持っているし、太守としての責任を果たそうという気概を持った立派な為政者としての魂を持っている。
北嶺の民も、小難しいことは理解できなくても、純朴であるということは素直でもあるということ。辛抱強く付き合っていけばちゃんと応えてくれる人々でもある。いきなり下級官吏から太守の副官なんて出世をしてしまったにも関わらず、皇女付きの騎士団長ルービンがヤエトを蔑ろにすることなく、過去彼が学生時代にヤエトに負い目があるせいもあるんだろうけど、色々と恩師として尊重してくれるから、変な妨害も入ることもなく。
本人が不満に思っているほどには、決して悪くない環境なんですよね。むしろ、非常にやりやすい環境なんじゃないだろうか。
中間管理職の悲哀がひしひしと伝わってくるヤエトの内面だけど、あんた、上司も部下もかなりあなたに気を使ってますよ?(苦笑
実際、皇女や北嶺の民から見たヤエトは、これまた扱いずらい色々と大変な部下であり上司だと思いますよ。
特に皇女。彼女のヤエトへの複雑な思いは、可哀想なくらい。彼女はヤエトの人格、能力を見極め、ちゃんと信頼し、この地でもっとも頼りにしたい人物である、と思っているのに、当のヤエトときたら自分はとっとと隠居してしまいたいです、なんて言って憚らない。皇女様からしたらたまったもんじゃないでしょう。絶大な信頼を置き、自分の身命をすら預けたい、と思ってる相手が、対して自分に関心を抱いている様子もなく、心の底から忠誠を誓ってくれる様子もなく、暖簾に腕押し糠に釘、ってな感じなんですから。内心、忸怩たるものがあるんじゃないでしょうか。
そのくせ、しっかり仕事はこなし、自分に諫言して間違いを正し、問題が発生すればさっさと片付け、挙句に人並み外れた耐久力のなさからぶっ倒れる。理不尽に八つ当たりする事すらできないんですから。
ヤエト視点で話は進むんですけど、中盤越えたあたりから皇女さまの方が逆に可哀想になってきましたよ(苦笑
ある意味、ヤエトの方が傍若無人ですよ?

北嶺に伝わる伝説と皇族にもまつわる恩寵の力。北嶺の地に集められた人々の顔ぶれに符号する関連性。裏では妙な陰謀だか、思惑だかが進んでいるようないないような、怪しい気配を醸し出されているわけで、人間関係だけでなくそちらの方もなかなか目を離せなくなりそうな展開に、なりそうなならなさそうな(w

とりあえず、皇女殿下がこのやる気のないへそ曲がりの虚弱三十路男を、見事に心服させられるのか。次の巻が楽しみで仕方ありませんな!
これ、たった二巻で終わるのが実にもった無いですよ。