火の国、風の国物語5  王女勇躍 (富士見ファンタジア文庫)

【火の国、風の国物語 5.王女勇躍】 師走トオル/光崎瑠衣 富士見ファンタジア文庫

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13歳とは思えぬオパーイに乾杯(マテ
失敬失敬。しかしながら、このクラウディア王女。身体の成熟具合以上に精神的な高貴さが半端ない。
僅か七歳にしてノブレス・オブリージュ。高貴なる者の義務、というものを理解し、体現しているのだから。

というわけで、今回はクラウディア王女とアレスの道中に二人の馴れ初めが回想として挟まれる構成。
自分、てっきりアレスのあの人外の強さはパンドラと契約してから手に入れたものだと思ってたけど、その下地となる彼の本人の強さも尋常ではなかったのね。まだ十をいくつか越えた程度の少年であるアレスに、国内有数の使い手である大人たちがまるでかなわなかったというんだから。
元々が常軌を逸した強さだったのに、そこにチートであるパンドラの加護がプラスされたら、そりゃ一騎当千ならぬ一騎当万の境地にも至るわな(苦笑
でも、そんな無双のアレスに、騎士として人間としての魂を吹き込んだのはクラウディアだったのね。そして、正義とは決して一義的な概念ではないということを教えたのも。
アレスってどうしても頭の固い所があるから、もしあのまま成長していたら、人の気持ちを考えず規範にばかり縛られる教条主義的などうしようもない厄介者になっていたかもしれないね。今でも、まだ清濁飲み込めずにいるところあるし。
一方のクラウディアも、王家の人間であるという立場に固執して自分がクラウディアという一個の人間、一人の少女であるという点を端から捨てていたような面があったものの、アレスを傍に置くことで徐々に少女らしい素顔を表に出し始める。
彼女もまた、アレスの影響を受けずにそのまま成長していたら、果たしてここまで大きな器を得ることが出来ただろうか。自分を殺し続けるということは、やがて情緒も死んでいき、人形として生きるに等しいとも言えるわけで、どれほど志が尊かろうが、義務を果たしていようが、単なる歯車に身を落としてしまえば、そこにどれだけ人を惹きつけるものがあるでしょう。
その意味では、この二人はお互いに掛け替えのない存在としてお互いを必要とする関係だったのかもしれない。
今回、クラウディアがアレスに頼んだ内容は、あらゆる意味でただの家臣に押し付けるには大きすぎる難題でした。物理的な実現性の話ではなく、むしろ考えられるのは事後のこと。
全部上手くいったとしても、それがクラウディアの頼みであったとしても、アレスがクラウディアを敵中に連れ込んだというのは逃れられない事実。その責任を、アレスはとらされることは、クラウディアが予想していないとは考えられないんですよね。今回の過去回想で、実際に過去に同じように彼女を危険にさらし、責任を取らされそうになったという一件が描かれているわけですから。
つまりこれって、内乱を終決させるためにアレスを潰す覚悟がクラウディアにあった、と考える事も出来るわけで。
もし本気でその覚悟が彼女にあったら、マジで惚れますね。もっとも信頼する、異性として愛してすらいるアレスを、であるからこそ自身の渾身の国家への献身に巻き込み、使い潰すことを厭わぬほど、彼女が己を私の無い公の存在であると覚悟きめてるってことですから。

……ちょっと、そこまで考えてるとは思えないのも確かなんですけどね(苦笑
ジェレイドすら圧倒するその存在感は感服するばかりなのですが、彼女の策というのはあくまで対処療法に過ぎないのも確か。一時的に内乱は収まったとしても、この内乱が起こってしまった原因の根本的な解決には一切手が付けられない形でもある。
てっとり早く、臣民同士が殺し合う状況を止める、という意味では効果的で博愛的ではあっても、原因が解消されなければ同じことは繰り返されてしまい、結局死人は増えていくばかりになってしまう。
もっと言うと、クラウディア王女の立場からすれば、国軍と内乱軍の戦いが臣民同士の殺し合いに映るとしても、ジェレイドたちの立場からすれば、相手の王国軍、貴族軍の連中は身分違いの別人種。
ジェレイドの仕組んだ策謀は、確かに敵国の侵攻を呼び込み、自国を危機に陥れる悪辣な代物で、アレスからすれば絶対に許せない所業でしょうけど、果たして彼ら農民に国家への帰属意識がどれほどあるものか。
彼らにとっては何よりもまず、自分たちが生き残ることが最優先なわけですし。
問題は、ジェレイドがどれほどの規模で、またどういう形で国家のシステムを変える大戦略を構想しているか。
今のところは、自分たちが生き残ることが最優先って感じなんだけど……。

そう、結局のところ王家の権力が非常に限定されているってところが問題になってるんですよね、この作品。
貴族の権力が強すぎて、王権がほとんど及ばない状態。いわゆる諸侯が乱立し、権力が分散している状態から、中央集権化のもと絶対王政に移行する過渡期にあたるような……、いやそれとも特権階級の権力をはく奪していく啓蒙主義的な展開に至るんだろうか。

クラウディアとアレスが反乱軍内部に入り込んだ段階で、外敵が押し寄せるという展開は、色々と先の流れを想像できるんですよね。
ただ、パンドラがいらんことしたからなあ。真実を知ったアレスは、あの性格からしてジェレイドをまず許さないだろうし。
ジェレイドが言う、第二、第三の策の全貌も見えてこないし、果たしてどういう展開に持っていくのか、なかなか難しいところ。


しかし、アレスの世話役の爺さん、かなり大物だったのね。まさか、王様の相談役も務めるほどだったとは。
んー、でも国務大臣が憂うアレスの秘密ってなんなんだろう。今回の過去回想で見えた王様のアレスに対する態度からは、なんも分からんかったんだけど。