幽式 (ガガガ文庫)

【幽式】 一肇/わかば ガガガ文庫

Amazon


最初、主人公の渡崎トキオのこと、正直気に入らなかったんですよね。ヘタレなのに重度のオカルトマニア。好奇心丸出しで、腰が引けながらも怪奇現象に首を突っ込んでいくその姿は、オカルトというものをどこか娯楽としか捉えていないように思えて。
彼岸の向こう側に足を踏み入れてしまっているかのような電波少女、神野江ユイになんでか見込まれてしまった彼は、彼女の奇矯な振る舞いに振り回されながらも、なんだかんだと自分から怖いもの知らずに怪異のさなかに首を突っ込んで行ってしまうわけです。
彼が参加している大手オカルトサイトの管理人、クリシュナさんなんかはそんな彼の行動を危ぶんで、何度も忠告してくれるのですが、一応聞き届けているような態度をしながら、結局はユイに引きずられて、という体裁をまといながら自分から飛び込んでいく。
どこか、本当の怪異を舐めているような、深刻に受け止めきれていないような、軽薄にすら見えるその姿勢には、読んでてイライラさせられていたわけですが。
中盤、ある真実が明らかになったことで、そんな印象は完全に逆転。
参りました。
彼岸の向こう側に立ち、怪異に寄り添うように佇む神野江ユイの圧倒的な存在感、クリシュナの理性的でありながら怪異を肯定するその態度。そして、現実とあちら側の境界があやふやになっていくような幽界の描写。
まさしく幽霊が実在する怪異ホラーかと思いこんで読んでいたのですが。

はたして、この作品において、幽霊という存在は実在するものとして定義されていたんだろうか、と舞台がひっくり返されたあとに考えてみると、決して断言されていないんですよね。途中、ユイが見ていただけで。
むしろ、中盤以降に主人公の身に降りかかっていく怪異は、彼を含めた人間が心の奥底に溜め込んでいた闇が、さながら現世にあふれだしたかのような代物で。むしろ、幽霊だ心霊現象だと言っていた前半よりも、よほど恐ろしいものを眼前に突きつけられたような心地だった。
正気がねじれていく様子。均衡を保っていた精神が、ふとしたきっかけから壊れ崩れていくあり様。これまで見ていた光景が一変するようなそれは、人間が持ちえている精神の足場がどれほど危ういものなのかを思い知らされるかのようで。
ここらへんまで読むと、タイトルの幽式という言葉の意味が、深としみとおってくるんですよね。彼岸と此方とのあやふやな境界。幽かなるもの、というモノが事象としての幽霊や心霊現象とは一線を画した、人の心の中にあるものだというような。

そして、神野江ユイという少女の在り様。
なんで、トキオが彼女に目を付けられてしまったのか。彼を振り回しているかに見えた彼女の真意。彼岸の側に片足を踏み入れた理由。
その真実が解き明かされていくにつれ、彼女についての印象もまた一変していくんですよね。
優しい、子じゃないか。
読み終えてみれば、読後感は意外なほど切なくて、爽やかで。清々しいほどのボーイ・ミーツ・ガールの物語でした。
良作。