アンゲルゼ―永遠の君に誓う (コバルト文庫)

【アンゲルゼ 永遠の君に誓う】 須賀しのぶ/駒田絹 コバルト文庫

Amazon


この四巻で完結と情報を戴いたときはびっくり仰天したものでした。まだまだ中盤、これから本番って感じだっただけに。実際、本来は五巻完結だったところを大人の事情で四巻に纏めたそうで、ところどころどうしても早足だったり、伏線が触れられなかったり、飛ばされちゃったりしたらしき場面が見受けられたわけですが。
それを考慮に入れてなお。

凄まじかった。

圧巻でした。ったく、須賀さんの描く物語はどれもこれも、クライマックスは圧巻としか言いようがないのが正直困る。嬉しい悲鳴が迸るゼ。

淡々と繰り返す日常に埋没し、ウジウジと周囲の環境、母親や友人たちに侮蔑と絶望を抱きながら、何よりも自分に絶望し未来に何の展望を抱けないまま、腐ったように日々を過ごしていた、つまるところ普通の思春期の内向的な少女でしかなかった陽菜が、天使病の感染をきっかけに人生を一変させることになったこの物語。
自分とは関わりのない世界の話でしかなかったアンゲルゼとの戦争の渦中に叩き込まれ、さらに自分に秘められた出生の秘密、封印された過去などが明らかになるにつれ、残酷な現実を何度も何度も目の前につきだされ、叩きつけられ、だからこそ強くならざるをえなかった彼女。
そう、強くなったよ、陽菜は。最初の、あの引っ込み思案な大人しい少女がよくもまあ、ここまで、と思うほどに。須賀さんの作品の主人公としたらこういうタイプはちょっと見たことなかっただけに、どうなるかと思いましたけど、逆に最初が弱かっただけにその分ガシガシ叩いて鍛え上げられたのかもしれないですね。泣いて怯えて怒って挫けて、でも最後にはいつも歯をくいしばって立ち上がった少女。
やっぱり、須賀さんの女主人公はみんなカッコイイや。

最初に彼女が憎み、絶望していた周囲の人間たちの醜い姿が、平和な日常が覆されていくたびに、その真意、真相が明らかになり、陽菜が思っていたのとは全く別の姿となって現われてくる。みんな、本当に陽菜の事を心から想い、心配し、助けようとしていてくれたんですよね。それに気づいていくことは、セピア色だった陽菜の世界が鮮やかに色づき、彼女が日々を過ごしていた世界がつまらなくくだらないものでは決してなく、とても素晴らしいものだったと理解していく行程であったのと同時に、皮肉なことにそれらを失っていくものだったわけで。
何も知らなかった自分を後悔し、与えられ続けていた優しさ、慈愛に報い応えるために陽菜は強くなっていけたのでしょうけど、そうやって気づいた優しい世界を守ろうとすればするほど、せっかく気づいたそれらを遠ざけ、突き放し、無くしていかなければならないこの矛盾。

陽菜と合わなくなった後の、遥母さんのあの空っぽの状態は、辛かったなあ。読んでても辛かった。
だから、この人が色々と報われる展開を迎えたことは、ある意味この物語の中で最も嬉しかった事だったのかもしれない。
過去に負った傷を癒され、陽菜がああなってしまった後も、ああして彼女を待つのにお互い支える相手を見つけることが出来たんだから。
うん、陽菜と覚野の不器用な想いのぶつけ合いも、切ない純愛でとても好ましいものだったけど、この物語の中で一番胸に残ったのは、この血のつながらない母娘の繋がりだったように思う。遥母さん、頑張ったもんな。ほんとに、この人の哲也父さんとの別れや、そのあとの陽菜との生活は辛いことばっかりだっただろうに、陽菜に疎まれ憎まれても最後まで彼女を育て上げ、最後にはやっと陽菜と気持ちが通じて、本当の母娘らしくなったと思えば、その陽菜は戦争の最前線に駆り出されて、娘の安全を祈りながら彼女を待つ日々。彼女こそが、報われて欲しいひとだったからなあ。

一人蚊帳の外に置かれ、離れていく陽菜を追いかけようとするもーちゃんの覚悟。若者の浅慮と言われようと、彼の覚悟はすげえなあ、と思うしかない。湊にとっては、彼のそんな強い意志は彼が示している以上に鮮烈に感じるものだったのかもしれないなあ、と彼が有紗のことで敷島少佐に容赦のない指摘を受けた時の事を思うと色々と想像してしまう。
確かに、湊は最後まで有紗には腰引けたまんまだったもんなあ。彼の優しさは周囲の人間を明るくし、幾度も挫けそうになった陽菜を支え続けた間違いなく彼の長所そのものだったんだろうけど、同時に有紗との関係では短所となって出てしまったのでしょう。
でも、有紗も嫌いじゃなかったんじゃないかな。彼の、そんなところ。最後まで敷島以外と打ち解けなかった彼女だけど、陽菜が現れてから敷島以外の仲間に対して意識を向けるようになった彼女は、ちゃんと湊の優しい性格を認めていたように思う。だからこそ、あんな餞別をくれてやったんじゃないかと。
でも、湊からしたら、後悔ばっかりだよな、あの結末は。なにも、本当に何もできなかったんだから。
有紗は、悔いも思い残すこともなく、生き切ったんだろうけどさ。

そして、もう一人の主人公とも言うべき、敷島。
最後まで何を考えているかわからない、その真意がどこにあるか見つからない、一癖も二癖もある面倒で厄介でわけのわからない人だったけど、最後の手紙を見たら、なんかもうこの人の心の内側の正体に首をかしげていたのが馬鹿らしくなってきてしまった。
この人はとてもシンプルで、わかりやすくて、だからこそきっと当人にも自分の事が分かっていなかった複雑怪奇な人だったんだな、と。
片腕だった東さんなんか、その辺よくわかってたんじゃないかな。
そんな彼が、娘から与えてもらった平穏な日々。
陽菜が世界を愛おしいものと知っていったのと同じように、彼も陽菜をはじめとしたアンハッチの子供たちと過ごす中で、きっとかつてどこかにしまいこんでしまった世界や人を愛する安らぎを、取り戻していたんだろうなあ。
うむむ、思い返してみると、須賀さんって死亡フラグがビンビンに立ちまくってるオッサン、意外と殺さんなあ(笑

そして、圧巻のクライマックス。
陽菜の決断と残された人々の想い、少年の誓い。
最後に陽菜が残した言葉には、ちょっと泣きそうになったです。出来れば、敷島と陽菜の関係への複雑な思いは、もうちょっとじっくり醸成してれば、もっと良かったんだろうけどなあ。二人の関係の真相とか、わりとあっさり過ぎちゃったのは、マキ入ってたからなんだろうなあ。
他にもやっぱり、色々と畳まれた話があるっぽいし、五巻で読みたかったところだけど。やはり、現代軍隊モノはキツかったんだろうか。もったいないもったいない。
それでも、物語としてこの上なく見事にまとめてくれたのも確か。
傑作でした。傑作でした。ああ、素晴らしかった。