彼女は戦争妖精2 (ファミ通文庫)

【彼女は戦争妖精 2】 嬉野秋彦/フルーツパンチ ファミ通文庫

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おかしいとは思ってたんですよね。この手の強制バトルフィールドものには付き物の、参加者への報償の有無が第一巻では語られなかったのですが、ここにきて明らかに。
ウォーライクだけでなく、ロードもまたこの戦いを勝ち抜くことで得られるものがある。それは、どんな願いでも一つ叶う、というあまりにも大きな報償。

となると、常葉が言う「薬子先生を信じるな」という言葉が俄然、真実味を帯びてくる。歴戦の鞘の王である彼女が、どうしてその事実を伊織に告げなかったのか。
前回、絶体絶命のピンチを助けてもらい、文字通り命の恩人となった薬子先生。このウォーライクを巡る戦いについて何一つ知らなかった伊織とクリスに知識と戦い方を教えてくれた彼女。彼女がいなければ、まず初っ端から脱落していた事は間違いない。
それに、薬子先生は伊織の叔父と過去に何らかのにゃんにゃんがあったような雰囲気もあったので、甥ッ子である伊織には何かと目をかけてくれているのかと、常葉に言われるまでは全然疑いもしてなかったんですよね。
いや、常葉に言われた時ですら、何言ってんだ? と、あまり気に留めることもなかったのだけれど……。

今回、薬子先生は前半中盤と物語に現れない。私生活の方で、長らく病を得ていた母親が亡くなり、その葬儀と後始末で慌ただしいことになっていたのだ。
彼女の、一教師には相応しくない高級マンションという住居に私生活(教師の仕事中は非常に野暮ったい格好をしてるくせに、私生活ではビシッと高級品で決めている)。身近に見え隠れする親しげな男性の影。
不審というほどではないけれど、彼女に不安のようなものを抱きはじめる伊織。

伊織って、巷じゃ滅多に見られないほどドライな主人公で、前回のメインヒロインかと思われた牧島さおりが向けてきた仄かな好意への、バッサリとした断ち切り方、無関心さは呆気にとられるほどだったんですけど、薬子先生に男性の影が見えた時の微妙な態度見てると、彼って先生に対して無自覚なレベルで好意みたいなものを抱いていたのかなあ、という気になる。
だってあれ、どう見ても嫉妬だもんなあ。


その薬子先生、クリスと伊織を狙って襲ってきたウォーライクとロードと戦闘を行うのですが、そこで彼女が伊織に語っていた自身のこの戦いへのスタンスと食い違う言動が垣間見える。
というか、なんか辻褄合っちゃうんですけど、色々と。うわぁ。これはちょっと、本気で油断ならないことになってきたかも。


一方、もう一人のヒロインたる新登場の大路常葉。登場シーンや途中のたち振る舞いからして、「王子」の名に相応しい、典型的な剣道少女。この人の場合は薙刀少女か。古風で規律正しいさっぱりとした気風のヤマトナデシコかと思っていたのだけれど、いや本人もそうあろうとしていたし、周りもそう受け取っていたんだけれど。
土壇場で彼女が見せたものは、ドス黒いまでの女としての情念。
その浅ましい考え、好きな人の幸せを踏み躙るような有り様、反吐が出そうな自分勝手な振る舞いに、自分自身で苦悩し絶望しながらも、暗く醜い自身の情念に身を委ねてしまう常葉。
いやね、むしろ清廉潔白な娘より、私はこういう自分の醜さに苦しみもがく娘の方が好みなんですよね。
自分にそういった感情があることを偽らず、目を背けず、直視して自分の浅ましくも醜い想いを裏切れないあたり、この娘は本当の意味でまっすぐな心根の娘なんでしょう。

彼女はもし、今後伊織たちと袂を分かつことになっても、まず正面からきっぱりとそのことを告げ、正々堂々と敵対してくれるように思います。
まあ、そうならず、まず頼もしい味方として。クリスにとってはリリオは初めての身近な友人として、助けになってくれるのでしょう。
クリスなんか、リリオと交流することでメンタル的にもただのお子様から多少戦うことへの自覚が生まれてきてるみたいだし。

それにしても、毎回冒頭で伊織が作るフレンチトーストは美味しそうだなあ。