恋のドレスと舞踏会の青―ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (コバルト文庫 あ 16-23)

【ヴィクトリアン・ローズ・テーラー 恋のドレスと舞踏会の青】 青木祐子/あき コバルト文庫

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今までは素直にクリスとシャーロックの身分違いの恋物語、応援してきたんですけど、いざ実際に二人が両想いになった途端、押し寄せてくる冷徹な現実に、はたしてこのまま二人が恋をし続けて幸せになるんだろうか、と不安の方が大きくなってきた。
パメラの懸念に、今になって大きな共感を覚えてしまう。厳格な階級社会であるイギリスの、しかも大貴族の御曹司で将来的には政治家を志すシャーロックと、上流階級に顧客がいるとはいえ、一介のドレスの仕立て屋でしかないクリスとの間には、絶壁のような壁が横たわっている。
今回、舞踏会への参加をクリスたちの味方である皆がこぞって反対したように、クリスの性格からして社交界にしろ何にしろ、表舞台でシャーロックの相方として振る舞うことは絶対に無理なんですよね。パメラですら、結局四苦八苦してたわけだし。シャーロックにとって身分が低い、社交性もない女性を妻とすることは、周りから見放され貴族としても政治家としても将来を閉ざされることを意味するし、クリスにとっても、シャーロックの正妻となることは、精神を摩耗させて壊れてしまいかねない事を意味していると言ってもいい。だから、周りの幾人かの人が提案しているように、クリスを愛人として囲うという方法は下劣ではあるけれども現実を見た場合に二人が今後も一緒に居続ける方法としては、最善でもあるとも思うんですよね。
でも、二人の微笑ましい純愛を見てると、シャーロックの潔癖な性格も相まって、とてもこの方法がとれるとも思えない。シャーロックの過去の恋愛遍歴を見ても、クリスとの付き合い方はとても誠実で情熱的で盲目的ですらある。彼女とのそれが、彼にとって初めての本当の恋だったんだろうけど。ちょっとそれはどうか、と思うくらいに独占欲や嫉妬を見せてるもんなあ。
もしかしたら、今が二人にとって最良の時間なのかもしれない。指と指を絡めあい、額と額をくっつけあって互いの熱を感じ合っているような時間。でも、それは同時に、それ以上近づくことも離れる事も出来ない雁字搦めの状態でもあるわけで。
自分に出来ないことはない、という熱意あふれた若者特有の幻想にとらわれているようにみえるシャーロック、愛しい男性に一途な愛を囁かれてうっとりと夢に浸っているクリス。でも、二人の間に闇のドレスやクリスの母親への見解など、既にすれ違い食い違いつつある兆候は芽生えつつあり、周りの環境は二人の愛を許す余地など一欠片も残していない。
この時点でハッピーエンドの形がまったくと言っていいほどイメージできず、不安ばかりが募っていくこの物語。
ああ、なんとかならんものかなあ。