此よりは荒野 (ガガガ文庫)

【Gunning for Nosferatus 1.此よりは荒野】 水無神知宏/maruco ガガガ文庫

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……参った。心臓に銃弾一発、ズキュンと打ち抜かれた。

傑作だ

ダークファンタジー×西部劇
19世紀末、アメリカ西部。近隣の村とともに家を襲われ、母と妹を亡くしたアラン・グリーンウッド。彼を助けた少女は言った。襲撃者は「不死者秘儀団」だと。炎に包まれる家を前に、アランは復讐を誓う。――それから3年。保安官の叔父のもと、キングスウェイ市で保安官補となっていたアランは、かつての少女 ――「屍人殺しのステラ」の二つ名で呼ばれる凄腕の拳銃使いと再会する。その間に埋められぬ力の差を感じ、自嘲するアラン。そんな折、街が人狼に襲撃され……。いま、ふたりの復讐劇が幕を開ける!!



重厚にしてシンプル。余計な虚飾など必要としていない、隙のない物語。
パーフェクト、パーフェクトだよ、完璧だ。文句のつけようがない。
筆者の前作【鋼鉄の虹 戦闘装甲猟兵の哀歌】は残念ながら未読。同シリーズの【彗星城に亡霊は哭く】の方は持ってたんだけどなあ。

荒廃した大地。そんな未開の地を切り開く開拓民。暴虐を振るう無法者たちと、それに立ち向かうは孤高のガンマン。
まさしくこれが西部劇。銃ですよ、銃。たとえ、獣人や吸血鬼、グールやオークといったファンタジーの産物が出てこようとも、銃を頼りに戦い抜くなら、それはガンスリンガーの物語。そして、登場人物たちの心に根を張るのは底暗い復讐の怨念、未熟故の焦燥と繰り返される挫折。心地よいまでの絶望と、だがその覆いかぶさる膜を引き裂き前に突き進もうとする健やかな怒りの念。
強さとは何なのか。己の頼るべき信念と正義を見つけ出し、少年は自らの握る拳銃と引き金の重さの意味を知り、その上で銃弾を放つ魂を得る。
これは傷にまみれた少年の、これ以上ないくらい真っ当な成長物語であり、血と硝煙にまみれた地獄を歩む決意を刻むまでの物語である。
そう、少年が安住の地を捨て、魂の呼びかけに導かれて――【荒野】へと旅立つ物語なのだ。

そんな彼の燻ぶった心に火をつけるのは、少年が幼い頃母と妹を喪った時に自らを助けてくれた拳銃使いの少女との再会。
既に荒野を流離う強者として確立している少女の存在を、少年は恐れ憧れ憎み苛立ち、やがて吸い寄せられるようにその在り様に引き寄せられていく。
力の未熟を嘆き、復讐を果たせず燻ぶる己に苛立っていた自分がどこを目指すべきなのか、何を為すべきなのか。自分が求める強さとは何なのかを、少女の背中に見出していくのだ。
最初は少年の存在を一顧だにしなかった少女もまた、追いすがってくる少年の視線を受け止め始める。

おまえに、此処に来る資格があるや否や。この寄る辺なき荒野へと。


繰り返す。これは傑作である。