ムシウタbug  8th.夢架ける銀蝶 (角川スニーカー文庫)

【ムシウタbug 8th. 夢架ける銀蝶】 岩井恭平/るろお スニーカー文庫

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流星群が降り注ぐ中、亜梨子と大助の最後の戦いが始まった――。大喰いを倒し虫憑きの生まれない世界を作るため、「ムシウタ」世界のバグである亜梨子の戦いの結末とは――!?大人気シリーズついに完結!


ああ、足りなかった。まだ足りなかったのか。大食いを倒すには。虫憑きを解放するには、まだ幾つものピースが足りなかったんだな。たとえ、すべての一号指定が揃っていたとしても、それだけでは足りなかったのだ。
今にして思えば、亜梨子はこの虫憑きというシステムの中のバグであると同時に、多くの虫憑きたちを引き寄せる炎のような存在だったのかもしれない。様々な主義主張を超え、本能から惹かれてしまうどうしようもない誘蛾灯。その眩い光には、他と交わらぬ孤高の者も、自身多くの人々を導くカリスマも、等しく心奪われてしまったのかもしれない。
でも、その光に導かれるだけじゃ、きっといけなかったのだ。利菜も、ハルキヨも、そして大助もまだ自分が虫憑きであるという意味を。自分が見た夢の意味を、本当の意味で理解していなかったんだろう。まだ、本当の夢を見つけていなかった。亜梨子を、ただ自身の見た夢のように瞳に映してしまっていただけなのかもしれない。
本当の夢を見つけた上で、虫憑きという運命から逃れるための戦いではなく、本当の夢を掴むための自分のための戦いを、得るべきだったんじゃないだろうか。

いや、それを得るために。認める為に、この戦いはやはり避けられないものだったんだろう。この戦いを通じて、亜梨子に導かれて集った面々が、亜梨子の一度は挫けた心を立ち直らせるほどの、自分の戦うための夢を手に入れられたんだから。これは逃れられない敗北だったのだ。必要だった失敗だったのだ。

ちくしょう。

一之黒亜梨子はしくじった。すべてが終わった後に振り返れば、彼女はしくじるしかなかったのだ。彼女には時間が残されておらず、始まりの三匹や虫憑きという存在に対して多くの謎を残したまま、あるいは謎があることすら知ることのないまま、虫憑きを解放するための戦いに挑まなければならなかった。
彼女は、自身と摩理の関係についても大きな間違いを抱えたまま、戦いに挑んでしまう。
本来なら手を結ぶはずのない勢力を糾合し、相容れぬはずの個性あふれる虫憑きたちをまとめあげたにも関わらず、彼女たちの戦いはやはり万全ではなかった。時期が、早かったとしか言い様がないのかもしれない。
それでも、亜梨子と摩理は自分たちの想いにも決着をつけ、迷いも吹き飛ばし、自身が最良と信じる未来のために全力を振るう。
彼女の夢をかなえるために。
あまりにも大きな被害を残しながら、彼女は絶対的な絶望に希望という風穴をぶちあけたのだ、確かに。

そして、いなくなってしまった。
大助たちに、夢を。虫憑きたちの未来を託して。


かっこうが、どうしてあれほど不屈で揺るがぬ戦士であるかの根源が、ここに見つかる。彼女とのこんな約束を、こいつが破れるはずがないじゃないか。
そして、ハルキヨ。彼の何をよりどころにしているか分からない不可解な行動原理の根源が、ここに見える。
彼もまた、彼女との約束に縛られているのだ。

だが、あの敗戦はやはり前進であると同時に、大きな後退でもあったのだろう。大助もハルキヨも、それぞれ大きなカリスマを持った虫憑きであり、人を惹きつける魅力を持ってる。
でも、亜梨子とはやはり違う。
少なくとも同じ組織の同僚である霞王たちと、大助の関係が決して良好とは言えないものであるのは、間にあった亜梨子の存在がないからなんだろう。大助もハルキヨも、誰も無視できない大きな存在だけれど、それでも利害や思惑を超えて、ついつい手を貸してしまうような存在ではない。

そうなる可能性を秘めているのは、ふゆほたる、なのかもしれないけど、彼女もまたベクトルが違うからなあ。

今、一度バラバラになってしまった希望の灯が、徐々にともり始めている。あの時にはなかったピースが、徐々に揃いだしている。
虫憑きがいなくなるその日まで、眠りについた亜梨子。
彼女が目覚めるのは、はたしてすべてが終わったあとなのか。

いや、そんなはずがない。あの亜梨子が、黙って待っているはずがない。きっと、最終決戦には何らかの形で復活するに違いない、と今は確信のごとく信じている。
虫憑きたちの物語に、亜梨子は絶対に欠かせない存在のはずなんだから。
そして、彼女が目覚めたときには、亜梨子が見た夢にただ誘われ導かれるのではなく、各々が手にした夢を亜梨子に示してくれるはず。


……亜梨子って、結局誰か個人を好き、ってことはなかったのかなあ、と読み終えて嘆息。薄らとした好意みたいなものはあったとしても、明確な恋愛感情は抱かなかったみたいに見える。とっても、大切には思ってても。
それに比べて、大助とハルキヨは……(苦笑
あれ、この最終巻の反応とか態度、発言みてると、大助って結構本気で亜梨子に惹かれてたんじゃないだろうかと疑ってしまう。なんか、それっぽいこと言いかけてるし。
ハルキヨはハルキヨで、恋愛感情とはまたベクトル違うのかもしれないけど、亜梨子にぞっこんだし。
一応、ムシウタって詩歌がヒロインなんだけど、詩歌と大助の関係っていまいちなんかわかんなかったんですよね。もしかして、まだ亜梨子にも目があるのか、これ(笑