旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)

【旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。】 萬屋直人/方密 電撃文庫

Amazon



少年と少女が目指すのは「世界の果て」。存在そのものが消失していく「喪失病」が蔓延し、滅びを迎えつつあるこの世界で、少年と少女は旅を続ける。おそらくは、自らが消え去るその時まで。
何のために、彼らは旅を続けるのだろう。社会が崩壊しつつあるこの世界で、旅を続けるのはとても困難なことだ。そして彼らの目指す、「世界の果て」とは、きっと具体的な目的地のことではない。
目的地のない、果てのない旅。
在りえない場所を求めているのか。それとも、辿りつかない場所を目指すことで、終わらないことを願っているのか。
荒廃していくこの世界の中で、少年と少女が出会う人々は、やがて消滅する病を背負いながら、それぞれが懸命に生きていて、少年と少女と温かくもやさしい一期一会を交わしていく。
自分という存在も、自分が存在したという証拠も、何もかもが消えていくという運命が待ち受けているというのに、彼らはありのままに未来ではなく現在と向き合い、心新たに生きている。その姿がやけに眩しく、そして掛け替えないものに見えてくる。生きるという事の尊さ。今を享受することの大切さ。自分が消えてしまうことを恐ろしく思わないことはない。絶望を抱かないわけがない。事実、少年と少女は旅先で出会った人の消滅に立ち会い、「喪失病」に罹患した自分たちの末路を目の当たりに、おそれおののく姿を見せる。
こわくないわけがないのだ。
それでも、彼らは立ち止まらず旅を続ける。
彼らの旅は、生きるということそのものの証明、なのかもしれない。野菜を育てる「取締役」と「秘書」のように。飛行機を飛ばす夢をかなえようとした「ボス」のように。

少年と少女は旅を続ける。きっと。どちらかが、先に消えてしまうその時まで。
自らを示す固有の名前すら失ったなかで、少女は彼を少年と呼び、少年は彼女を少女と呼ぶ。彼らの関係は恋人ではなく、兄弟でもなく、ただの旅の道連れなどというつれない関係などでは決してない。一度だけ、少女が少年との関係を口端に上らせたことがある。
元は、ただのクラスメイト。それも会話も交わしたことのなかったような間柄。それが手に手を取って、何もかもを捨てて、二人だけで旅に出た。
どんな想いの果てに、二人は手を取ったのだろう。二人で旅に出たのだろう。その膨大な想いの一端が、彼女のどこかおどけたような口振りで語られた言葉の裏に感じられたのだった。
圧倒され、総毛立った。
運命を共にする。共に旅をする。共に生きる。少年と少女は、きっと最期までつないだ手を離さないのだろう。
滅びが訪れるその時まで。世界が果てる、その時まで。

どこまでも行ってしまうだろう彼らの背中を、なぜだか見送る気分で本を閉じる。