聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)〈4〉 (MF文庫J)

【聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) 4.Hero】 三浦勇雄/屡那 MF文庫J

Amazon


いやー、毎回このタイトルの表紙絵は楽しみにしてるんです。主人公にしてヒロインのセシリーの着せ替え七変化。今回の第四巻も期待に違わぬ出来栄えで。毎巻、同じ女性キャラクターを表紙に持ってくる、というスタイルは今や定番なんですが、この【聖剣の刀鍛冶】シリーズに関しては、漠然と描いてみました載せてみました、というのではなくきちんとテーマを以って魅せることをとても意識しているという印象で、非常に好感度高いんですよね。

ちなみに、シリーズの一巻から三巻までの表紙はこんな感じ。

聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) (MF文庫J)聖剣の刀鍛冶〈2〉 (MF文庫J)聖剣の刀鍛冶 #3 (3) (MF文庫 J み 1-11)


もちろん、これらの衣装、格好は本編で実際にこの姿になったものをイラストとして起こしたもの。それも、それぞれストーリーに重要な関わりを持つ格好なので、中を読む前と後ではまた少し印象も違ってくるので、二度美味しい。
しかしながら、今回のセシリーは実に色っぽい。大きく開かれた背中から腋に至る素肌の色っぽさ。そりゃあ、ルークも、ねえ(ニヤニヤ


さて、本編ではあるが、こちらも面白さがどんどんカッ飛んできた。外装だけじゃないのである。

サブタイトルの<Hero>が、輝いて見える今回のお話。第三巻は、セシリーの格好よさが際立ってたわけですが、第四巻はルーク・エインズワースのターン! とも言うべき、ルークのあらゆる方向に迸る格好よさ。その姿はまさしくヒーロー。英雄ではない、ただ一人の女性、セシリーにとっての憧憬の対象であり、思慕の相手であり、目指すべき頂きでもある存在。
だけど、彼にその輝きを取り戻させたのは、間違いなくセシリーその人なんですよね。幼馴染を自らの眼の前で失い、燻ぶり心錆びつきながらただ幼馴染の仇を討つため暗い情念、復讐心を滾らせていたあの男が、こんなに変わるとは。聖剣を打つためには、詰まらない意地もプライドも捨てて頭を地面にこすりつけ、自らの魂が削れていくことを厭わず、彼女のいる戦場に駆けこんでいくその姿。
最初に出てきたルークの姿を思い出したら、ちょっと信じられないくらいである。そんなヒーローとしか言えない輝きを彼に与えたのは、セシリーの真っすぐで懸命な、さながら太陽のような意志。
今回だって、自らに課せられたタイムリミットに焦りを募らすルークの陰りを、一発で払拭しちゃうんだから。今や、ルークにとってセシリーという女の存在は、とてつもない影響力を持っているんだろう。
でも、そのセシリーだって、最初からルークの燻ぶった魂を揺り動かせるような女じゃなかった。理想ばかりが先走り、短絡的で先が見えず、いつも壁に頭からぶつかって蹲り、挫けること度々の、実力も心の強さも決して一人前と言えない少女でしかなかったのだ。
そんな彼女を、なんど叩き伏せられても、傷つけられても、心折られても、自分の弱さを受け入れた上で不屈の魂で何度も立ち上がり、そのたびに強くなるような女性に叩き上げたのは、きっとルークの背中が目の前にあったからだ。今回だって、ルークに強くなったと言われて浮かれたところを、完膚なきまでに痛めつけられ、自分の弱さを突きつけられてしまう。これほど毎回、敗北し、痛めつけられ、自分の弱さを思い知らされるヒロイン、主人公は滅多いないんじゃなかろうか。でも、挫けないんですよね。そのたびに、この娘は強くなる。ほんと、強くなる。自分の弱さを忘れず、心に刻みつけながら、強くなる。カッコイイッたらありゃしない。
こんな彼女だから、機会主義者や現実主義者が鼻で笑うような理想論をぶちまけても、失笑を買わないのだ。彼女は自分が口にしていることがどれほど現実を無視しているか。楽観的で無茶苦茶なのか、ちゃんと分って行っているから。弱い彼女は、眼の前の敵にも勝てない彼女は、より大きな難事を成し遂げることが、どれほど困難かとても理解しているから。その上で、絶対に成し遂げてやるという意思と、それを叶えるための力を着々と培っているから、彼女の言葉には軽さがない。
彼女の存在と言葉は、出自によるものとは別の重さを、世界に示しつつあるようだ。

これほど、主人公たる男女が、お互いに影響し合い、互いの存在が曇りを拭い去り、互いの存在を輝かせていく物語は、なかなかお目にかかれるものではない。
そして、相互作用のように二人が放つ輝きに照らされるように、周囲の人々もそれぞれが抱えた闇、囚われた檻を壊さんと輝き始める。
魔剣という呪われた運命に立ち向かう意思を得たアリア。ルークの幼馴染の肉から生まれたという出生に苦悩し続けてきたリサ。彼女らもまた、自らの闇に沈むのではなく、向き合うことを選び、呪われた運命ではないものを勝ち取るべく戦いをはじめる。それぞれ、掛け替えのない相棒であるセシリーやルークとともに。
さらに波及するように、軍国の少女王ゼノビアや、かつて亡命を助けたシャーロットたち。軍国の刀鍛冶たち。魔剣を憎む学者ユーインといった面々の意識をも変えていく。
世界の情勢は帝国や群集列国の動きから緊張が高まり、ヴァルバニルの復活も刻々と近付いているという予断を許さないものになりつつあるものの、それに立ち向かうナニカは、この巻で確実に確立されたんじゃなかろうか。
絶望が近づくにつれ、希望が膨らんでいく。


それにしても、セシリーはもう完璧に自分のルークへの感情を認めちゃってるのね。それどころか、内心でとはいえヒーロー呼ばわりとは。どんだけ好きなんだ(笑
びっくりしたのは、むしろルークの方かも。本当に、彼はもう幼馴染の喪失を克服したんだなあ。

いやあ、面白かった。アニメ化の対象となるのも、これじゃあ無理ないわなあ。もっと巻数を重ねてなら、とも思わないでもないけれど、売り込みどきを考えたら、このタイミングというのは商売的には最適なのかもしれない。
色々、心配だけどね。変な影響がこっちに出なきゃいいけれど。