影執事マルクの手違い (富士見ファンタジア文庫)

【影執事マルクの手違い】 手島史詞/COMTA 富士見ファンタジア文庫

Amazon


最近俄かに流行り出した執事モノ。さらに、どっかのアニメ化した漫画みたいな影執事といういかにもなタイトル。おまけに素性は暗殺者。
おーらいおーらい、またぞろスーパー万能執事さまがそのスーパーな最強能力を野放図にぶちまけて大活躍するような、アレなお話なわけですね、はいはい。
とか思ってて済みませんでしたーーーーー!(全力謝罪

ぶっちゃけ、思ってたのとはかなり違ってすんげえ面白かったです。やるじゃないか、富士見ファンタジア文庫。
思ってたのと一番違っていたのは、執事となるマルクのキャラクターですかね。めちゃくちゃ叩き上げじゃないか(笑
てっきり出生から特別ないけすかない万能超人の類いだと思ってたら、普通の家の生まれで、そこから親の事業の失敗から最底辺に転落。生きるために様々なスキルを身につけていった、と書くとカッコイイですが、終始ろくな目に遭わず、やることなすこと失敗続き、という結構な不幸属性の持ち主。裏稼業に足を踏み入れるきっかけとなる契約者としての能力を得たきっかけも、特に資質とか特別なイベントに遭遇したわけでもなく、思わず苦笑してしまうようなけっこう身も蓋もない形で得たモノという情けなさ。挙句、契約の対価が日常生活を過ごすのに随分と支障があるもので……いやもう、笑っちゃうほど苦労性。
とはいえ、せっかく身につけた異能の力を利用して、用心棒として身を立てていたマルクが、暗殺の初仕事として請け負い襲撃を掛けたエルミナという令嬢に、見事に返り討ちにあい、なぜか執事として雇われる羽目に。と、ここでようやく執事が出てくるわけです。
最初から執事じゃなかったんですよね。あらすじ見て、執事のくせに暗殺者って、またなんて陳腐な、と思って購入予定から切ってたんですけどね。あのあらすじはなんですかね、ほんと。悪い意味で騙されましたよ。

何故か暗殺対象に雇われる召使の身分となって頭を抱えながら、仕事をこなしているうちに執事という役職に馴染んでしまっている自分に気づいてまた頭を抱えているマルクとか、コメディ調の話のテンポが小気味よく、これが面白いんだ。
鉄面皮ながらも、ちょっとした反応が可愛らしいお嬢様のエルミナとのやり取りや、その人柄に段々と惹かれていく過程。泥を啜るような境遇に慣れ、友人の一人もいない身の上から、この屋敷が自分の居場所なのではないかときづいていくその流れ。
また、エルミナの抱えるアルス・マグナの秘密や契約者という存在の謎。開拓時代の新大陸を想起させる世界観といい、設定群もなかなか充実していて、そっち方面の読み応えもたっぷり高密度。
今回の敵となる連中も、どうやら一発での使い捨てではなく、これから長々と、単なる敵役としてではない付き合いになりそうで、末端までキャラクターを大切にして永く縦横に使い倒していきそうなそのスタイル、好感度高しです。
また、単純にエルミナとマルク。その主従のやり取りを眺めているだけでも面白い。
これは富士見ファンタジー文庫から久々に大当たりがお目見えしたかも。
というか、これを見逃していたのは痛恨でした。
引き続き、既に手元にある二巻にかかります。