狼と香辛料〈10〉 (電撃文庫)

【狼と香辛料 10】 支倉凍砂/文倉十 電撃文庫

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ホロにからかわれ、ていよくあしらわれていたのも遠い昔。
対等の相棒として共に困難を乗り越え、並び立てるようになったのはいつかの昨日。
そして今回のエピソード。
ついにロレンスも、ホロを「守る」ことの出来る男になったのだなあと感慨深さに浸る。
ホロという女は老練さとは裏腹に、随分と隙が多い。ふとした瞬間に弱さをさらけ出すことも侭あり、それが彼女の魅力でもあったわけだが。よくよく読んでいれば、ホロが見せる弱さというのはほんの一瞬だけのもので、すぐさま年を経た狼の諧謔の中に覆い隠してしまう。最初の頃は、ロレンスの動揺を誘うため。やがては、彼を深く信頼し心許しているからこそ見せる弱さだったのだろうけれど、決してその弱い部分を野放図にぶちまけてしまうことなく、常に自制によって戒め、コントロールを失うことはなかった。一方のロレンスもまた、彼女の見せる弱さにズケズケと踏み入ることなく、彼女の背中を叩くように遠まわしに(直接的な言動はホロとロレンスの関係においては負けを意味するので)励ますような態度を取ることが多かった。それはホロの自立性を尊び彼女の強さを信頼しているからこその態度だったのだろうが、同時に一定の距離を保ち、依りかかることを良しとしない態度であったともいえる。
それは、相棒としてはまさに然りというべき関係ではあったが、果たして男女の関係としてはどうだったのだろう。

今回、舞台が極寒の地ということもあるのだろう。ホロやロレンス、コルたちは普段よりもお互いの温もりを求めて寄り添い合う描写が多かった。同じ毛布をかぶって寒風を凌ぎ、寝床も共にして抱き合って眠るような。
だが、そうした描写が多かったのは単に外の環境に因るものだけではなかったのではないだろうか、と今回の話を読んでしみじみと思う。
もっと精神的な意味での寄り添いが、彼らの中で進行していたのではないだろうか。

今まで、常に見た目はともかく実年齢として最年長という立場にあったホロが、今回様々な観点から若い娘としての顔を垣間見せることになる。
前回の話が商戦の話であり、ロレンスの商人としての器量を試される話だったとしたら、今回はあくまでホロが求める狼の骨を調べるのをロレンスが助ける話。ロレンスの「男」としての器量、包容力が見えてくる話だったように思う。
こう考えるのは意外かもしれないが、私はこの十巻で初めて、ロレンスはホロを自分が惚れたただの娘として接したように思うのだ。傷つき泣きじゃくる娘に、寄り添い抱きしめ、包み込んだのだと。

そして、それは常に別れを念頭に置いていたホロとの関係、距離間の崩壊の始まりであるようにも思うのだ。
これまで、揺るぎなく覚悟していたホロとの別れに、ロレンスはとうとう迷いを生じさせはじめる。相棒としてではなく、ただの守りたい女としてホロを包んでしまった時点で、彼の今までの覚悟など何の意味もなくしてしまったに違いない。
決して高らかに標榜されているわけではない。克明に描写されているわけでもない。それでも、私はこの巻においてホロとロレンスの関係は一つの決定的な変化を迎えたのではと考えるのだ。

それはキャラの感情面の話だけではなく、物語の構成の中にも垣間見えてくる。ホロが拘り続けてきた「故郷」という概念を覆すような強烈なインプレッション。古き神の眷族が示した、新しい時代の新しい生きざま。それらは、ホロの内面を大きく揺さぶる要因となったのではないだろうか。ロレンスと同様に、ホロもまた、旅の終わりの先にある風景に、今までと違う何かを見出しはじめるのではないだろうか。

何かが、変わり始めている。

マンネリとかなんとか言われてるみたいだけど、とてもとてもそんな退屈な言葉、この巻を読んで出てきませんよ。ホロとロレンスの会話みたいに遠まわしで直截的とは程遠いですけど、この【狼と香辛料】という作品はとめどない変化がうねり続けている作品だと思うんですけどね。
飽きる、という言葉がほんとに程遠い。


ところで、この十巻。中ほどでのシーンなのですけど。ロレンスが本音をホロに聞かれてテンパるシーン。
あれって、直接的な描写こそなかったものの、よくよく読みこんでみるとどうにも……<キス>してません?
しかも、かーなーり濃いヤツ。
単に抱き締めたにしては、様子、描写がおかしいんですよね。いきなりホロの言葉が途切れて、声なき声になっちゃってますし。離れた後にホロがロレンスひっぱたいてるのといい。ロレンスの態度といい。ただ抱き締めたにしては変なんだよなあ。今更、ギュッとしたくらいであんな態度になるか、この二人が?
…………。
ただの自分の妄想かもしれないので、自信はないのですが。
漫画かアニメが、ここまで話が進めばわかるんでしょうけど、そんなのいったいいつになることやら(苦笑
ううん、気になる気になる。