雪蟷螂 (電撃文庫)

【雪蟷螂】 紅玉いづき/岩城拓郎 電撃文庫

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この物語の舞台を、極寒の山岳地帯に設定するこの人のセンスというか、物語への感性は、やはり凄まじいものがある、うん。
基本的にこの人の描く物語というのは童話的な雰囲気のするものなんだけど、その「昔々あるところに」の冒頭で幕開いていく世界観の圧巻の広がりと重厚さがとんでもないんですよね。幻想的でありながら生々しい、不可思議でそそけ立つような舞台に、ページを開いた途端に放り込まれる。
人食い三部作と名付けた一連の作品【ミミズクと夜の王】【MAMA】そしてこの【雪蟷螂】そのどれもが共通してその圧倒的な物語の舞台の存在感で読者を飲み込みながら、同時にそのどれもがまったく違う顔で迫ってくるのだからたまらない。
今度の舞台は雪と氷に閉ざされた山間の僻地。まったき白に漂白された唸るような静寂の世界。涙も凍る、冷たい死の世界。
この物語の根幹に流れる、愛する者を愛しすぎるがゆえに食らってしまうような激情の愛。すなわち「殺し愛」なんて言われるような情念とは、本来ドロドロのまとわりつくような執着で結びつく、熱く粘性で拭っても振り切れない感情のぶつかりあいとも言っていいもの。
その炎は、本人たちを含む周りすべての人間、環境、論理や利害をも焼き尽くし、破滅へと誘う制御の効かない暴虐の災厄のようなもの。消そうとしても消えない大火。
だけれど、この物語は感情すらも凍りつくような極寒の地を舞台にすることで、その何もかもを焼き尽くさずにはいられない炎を、非常に洗練された結晶のような鋭くも儚く、この上なく綺麗なものに純化させてしまっている。ここで描かれる三者三様の蟷螂の愛。そのどれもがどうしようもなく情熱的で激情的で、燃え盛る炎のようでありながら、不思議とそれらは白く透き通っていて、氷に手を当てたときのようにひんやりと冷たいのだ。それは、拒絶する冷たさではなく、心地よくもやさしい、熱すぎる熱を癒してくれる冷たさ。
逆に、彼女らから燃え盛る炎の熱は、凍りついて砕け散っていくはずのものを暖め、白く塗りつぶされていく絶望から心を救い、許しを得るかのような温もりを与えてくれる。
この奇跡のような熱と冷気の混合よ。
はたして、この物語の舞台がこのような極寒の環境でなければ、こんな絶妙のバランスで保たれた愛の物語が紡がれただろうか。極寒の地に生きるが故の、人々の生きざまが根幹にあるからこその、この愛の物語。
それを思うと、舞台がこの純白の世界であったのは必然であり、その必然と敢然と掴みとり、想う物語を想うように書きあげたこの作者は、やっぱりすげえなあ、と感服するばかりなのでした。

話の中身については一切、と言っていいくらいに触れていないが、それもまた感想というものであるんじゃない?