いつも心に剣を 1 (1) (MF文庫 J し 5-1)


【いつも心に剣を 1】 十文字青/kaya8 MF文庫J

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凄いな、作者は。いったい、どういう展開を目論んでるんだ? これほど共依存しているキャラクターを構築しながら、その二人が進む方向にはこれでもかというほど、別離と敵対へと繋がっていくだろう伏線を仕込んでるんだから、いったいどういう手管を用意しているのか、ゾクゾクしてくる。
もちろん、敵対に至るかどうかは定かではないのだけれど。ちゃんと、ユユが成っていくだろう魔女という存在には、魔王と呼ばれる愛によって結ばれ身命を共にするパートナーがいるわけで、ユユとレーレがそうした関係に転がっていくという展開も同じくらいの強度でルートが構築されているようにも見える。
この作者は、希望も絶望も等価に扱い、必要とあらばどちらも偏りなく放り込んでくるから、傾向からは予想が不可能なんだよね。おかげ様でドキドキですよ。

ヒロイン、ユユの性格はまたこれ極端だわなあ。普段は高圧的でレーレに対して小馬鹿にしたような辛辣な態度しかとらないのに、行動を見てるとレーレに対してとても深い愛情を抱いているのが伝わってくるのですよね。この娘、内面描写でもレーレに対して常にキッツイこと考えてるあたり、徹底してる。それでも行間を読むと常にレーレのこと心配してるし、なんだかんだと自分よりもレーレの事を考えてるんですよね。そもそも二人で旅に出た理由から、レーレの為だし。
いや、旅立ちの理由に関してはあながちレーレの為だけとも言えないか。あれは、彼女の誇りや世の中に対する疑問への抵抗とも言えるし。彼女のその世の中の矛盾に対して、論理的に考える事をやめられない。矛盾を座視できないことが、彼女をより自然に愛を語り、自由に生きる魔女たちの世界に誘っていくことになるんだろうけど。
一方で、レーレの方はと言えば、とてつもなく従順なんですよね。これは、人間よりも道具として育てられた子供によく見受けられる特質。よくあるパターンだと、物心つく前から暗殺者として働くように育てられたような子供。刷り込まれたみたいに、ユユに懐き、ユユを一番に考えている。ただ、単なる道具と違うのは子供の頃の子羊とのエピソードに見えるように、何かを愛する心を持っているところ。ユユに対するそれも、従属に見えて、単純に愛情故とも言える。単に表への出し方が特異なだけで。
その普通の人間としての心は、決してユユ個人だけに指向しているわけでもなく、ラストの戦いの中で感じた苦悩や拒否感は、彼がユユのためならなんでもやらかすような異常者ではなく、通常の感性を有していることの証明でしょう。
その感性が、果たして魔女と敵対するものなのか、共感するものなのか。今のところは、むしろ魔女たちのそれ、そしてユユと同じものに感じるんですけどね。魔女狩り騎士団の連中と比べても。

ウィザードリィを彷彿とさせる薔薇マリとはまた違う、濃厚な中世欧州の匂いが漂ってくるファンタジー作品。ユユとレーレという、珍しく二人の主人公に人間関係が収束した話でもあり、これは素晴らしい冒険ファンタジーであると同時に、ラブストーリーになりそうな予感。なかなかこれほど男の子女の子の絆が深い段階で話が始まる物語もないので、面白くなりそう。期待大の新シリーズです。