ゼロの使い魔 16 (16) (MF文庫 J や 1-19)

【ゼロの使い魔 16.ド・オルニエールの安穏】 ヤマグチノボル/兎塚エイジ MF文庫J

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うーん、面白いなあ。やっぱり面白い。軽重でいうならまず軽いと言って間違いないのだけれど、要所要所に冷徹なほどキッチリと楔が打ち込まれているので軽妙であっても軽薄というわけでは一切ないんですよね。
物語が非常に精緻に組み上げられている。もちろん、最初からこうだったわけではなく、中盤まではバランス的に安っぽさの方に傾いてしまう事もしばしばだったのだけれど、ここしばらくの丹念に研ぎ澄まされた筋立てには感服させられてばかりだ。
つまるところ、これが面白いのである。

個人的にこの巻で私が一番好きだった場面はあれなのよね。ダバサとイザベラの和解シーン。本当なら、もっとイザベラが心を許すまでの過程が欲しいところだったけれど、このさらっとした流し方がヤマグチノボルという人の持ち味でもあるので、そこはそれ。
まあイザベラも、ここに至るまでにもっと弱い部分、タバサへの負い目、罪悪感、それらを塗りつぶしていた驕慢さ、気がいの強さといった一面、表裏を見せてほしかったけれど。って、意外と不満多いのな。この二人の従姉妹の関係は突き詰めれば突き詰めるほど美味しそうだったのでね。

現状は戦争と戦争の間の平和、といった感じの平穏なわけだけれど、塚野間の平穏と言えど戦いばかりだったこれまでからしたら、とても大切なもの。とはいえ、平和は平和で剣を持ちえない戦争の始まりとも言える。図らずも英雄へとのし上がってしまったサイトの周辺は、危険なにおいが漂い始めている。ある意味、これだけ民衆に人気が出てしまうと、ただの国家の英雄ではなく魔法使いと平民との階級闘争の英雄に祭り上げられかねない立場に立たされる可能性もあるものねえ。今のところ、平民側の不穏な動きはないから、内乱という形はしばらくは可能性としてないだろうけど。貴族のサイトへの敵視はかなり危険なものになってきている。なまじ、これまでの彼の周りの貴族は、仲間の騎士団の連中のように気持ちの良い連中ばかりだっただけに、実際の権力を握った貴族たちの目からすると平民からのし上がったサイトは、予想以上に憎らしく、危険な存在として認識されていたんだなあ。
女王アンリエッタも、決して盤石な権力基盤を持った王ではないし。実のところ、サイトをそうした害意から守る庇護者としては、アンリエッタは大して役に立たないんじゃないだろうか、これ。ルイズはそのへん、過信しているけど。サイトに至っては、自分がどれほど危険な立場に置かれているか、まったく認識していない。そもそも、日本の一般市民のがきんちょだった彼に、微妙な階級間の渦巻くパワーバランスなんて想像もできないだろうし、仕方無い面もあるんだろうけど。
ルイズもいいところのお嬢様だから、決してその辺に敏感な方でもないんですよね。本来、この手のエキスパートはタバサなんだろうけど、彼女はガリアの女王となり、既に彼女個人の戦いを始めているわけで……。
まあ、その辺にみんなの認識不足がもろに最後の悲劇につながってしまっているわけなんだろうけど。でも、あれって結局パワーアップフラグなんじゃね? とあっさりとした退場に逆に穿ってしまうんですけどね?

今回のルイズの反応は、面倒くさいのは面倒くさいんだけどかなり可愛らしいものだったように思う。サイトもかなりルイズの扱い方わきまえてきたよなあ。ただ、こいつの場合何度も失敗を繰り返してようやく対処法を覚えるような経験則に基づくやり方だから、ルイズがこれまでと違う不安や悩みに行きあたっても、まずそれに気づくことができない。必ず、一度や二度は地雷を踏みぬき、すれ違いを経験し、お互いに傷つけ合わなければ、この二人は前に進めやしないのだ。意外なほどこの二人って、傷だらけのカップルなんですよねえ。タフだねえ、と思うけど、ほんと。大概、ここまで傷つけあったら、どちらかが耐えられんと思うけど。でも、どちらも笑っちゃうほど難易度低い二人だから、離れる前に捕まえられてしまうのも皮肉な話。ほんと、難儀な二人だ。

難儀といえば、アンリエッタの難儀さは苦笑してしまう。いっそ開き直れれば楽なんだろうけれど、魔性の女のくせに狡猾に立ちまわれないのが彼女の苦しいところなんだろう。自分の恋を政治的に利用し、両立できるくらいの狡猾さを身につけられれば、彼女の閉塞感も打破できるんだろうけれど。それをするには性格が良すぎるんだよなあ。もっとも、性格は良くても行動はアレなんだけどね。そのあたりが矛盾しないあたりが、彼女の魅力とも思えるのだけれど。
その点、シエスタは随分上手く立ち回ってる。最善を最初から捨て去り、常にベターを志すことでどのようなケースでも勝者に立てるような立ち位置を確保してるんですよね。女として、それが我慢できるか、満足できるのかは、それぞれの性格に寄るんだろうけど。意外とこの娘、ルイズのこと大好きに見えるしw

きな臭さがプンプン漂ってくるラストからして、次回からは再び戦雲漂ってくるかしらん、といった次第。これ、二十巻超えるねえ、余裕で。