迷い猫オーバーラン!〈3〉…拾う? (集英社スーパーダッシュ文庫)

【迷い猫オーバーラン! 3.……拾う?】 松智洋/ぺこ スーパーダッシュ文庫

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本シリーズのサブタイトル。一巻からこれ、最初は徐々にデレていってるのかと考えていたんだけど、違うのか。これは、それぞれの巻のメインヒロインの性格からなるセリフだったわけですね。
一巻の【拾ってなんていってないんだからね!!】は文乃。
二巻の【拾わせてあげてもいいわよ?】は千世。
そしてこの三巻の【……拾う?】は希。とくるわけだ。まあ、表紙見たら一目瞭然だったんだろうけど。

私はてっきり第一巻こそが希が迷い猫として主役を張った回だったと勘違いしてましたけど、違ったのか。未だに希にとっては、ストレイキャットは仮宿でしかなかったんだなあ。いや、仮宿というほど突き放してはいないだろうし、彼女なりに家族としてこの家に親しんでいたんだろうけど、でも馴染み切ってはいなかったわけだ。
我が家として帰ってこれる家だとしても、その家の中で自然と隅の方で大人しく丸くなってる猫。借りてきた猫、とでも言うんでしょうか。前の家で負った彼女の心の傷が、自然と彼女にひっそりと息を殺すように、自分の我を、秀でた能力を押し殺してしまっていたんでしょうね。もちろん、ストレイキャットの家族たちを信頼していないわけじゃないんだけれども、やっぱり怖いわけですよ、古傷を抉られるのは。もしかしたら拒絶されるんじゃないか、という不安は消せないわけですよ。
その恐れを押しのけて、彼女が自分の我を張り、能力を解禁し、自分の思うがままに行動しようと決心したのは、その家族のため。思えば、希がパティシエールとしての才能をストレイキャットに提供したのも、この洋菓子店が危機に陥ったとき。眼の前で困っている人がいたら、どうしても手助けせずにはいられないあたりに、この娘の優しさが透けて見えてくる。同時に、そのあたりがとてもストレイキャットの一員らしいんですよね。
今回は激化する文乃と千世の対立を仲裁するために、敢えて独り第三勢力として名乗りをあげる希。その際立った才能を全開にすることで、強引に崩れかけていた秩序を取りまとめ、文乃と千世に対立の落とし所を提供することになるんだけど。その余人の追随を許さない才能は、これまで希を孤立させ、家族だった子らを悲しませる能力でしかなく、強引な手法は家族の意思をねじ伏せるものだとして、希は皆から嫌われる覚悟だったんですよね。
大好きな家族から嫌われることが嫌で、怖くて、今まで隅で大人しくしていた希が、敢えて嫌われることを覚悟して、それでも家族に仲良くしてほしくて頑張った結果は、彼女の恐れていたものとは全然違って、前の家で苦しむ事となった家族との反応とは全然違っていたわけです。
希が家族として飛び込んだ人たちは、彼女が思っていたよりもずっと希のことを家族として大切に思っていたんですよね。
その押しつけがましさのかけらもない、自然で思いやりの在るてらいのない優しい家族関係が、やっぱり素敵な作品ですわ、これ。

文乃もね、巧への分かりやす過ぎるくらいの天邪鬼な態度を除けば、特に希に対する気遣いや心配りは、凄く丁寧で行き届いているんですよね。なんだかんだと一番個々の細かいところまで心配りしているのは、次女にあたる彼女なんですよね。やっぱり好きだなあ、彼女。
そして、今回はじめて乙女姉さんが役に立った気がするんだが…(苦笑
この長姉、愛情だけは目一杯あるんだけど、それが全世界に向いてるおかげで、他の家族に多大な迷惑がかかってるからなあ。それこそ、日常生活を送るのに支障が出るほど。実際、家族に対する責任を果たし切っていないんじゃないかと、これまでちと不信感あったんですよね。捨て猫拾ってきて世話しねーやつ、みたいな。まあ、今回、ちっとは挽回したんじゃないでしょうか。

さて、ラストの「……どうしよう?」には思わずふいてしまった。いや、確かにどうしよう? な状況ではあるんですけどね。当事者にそこまで端的かつ素直に困られると、思わず笑ってしまうほかないんですが。
でも、実際どうしましょうねえ、ほんとに。ここまでしっかりきっかりと、家族としての一体感が出来てしまうと、今更そこから誰か抜けがけ、というのはなかなか難しいのところですよ。その気持を口に出さなきゃ、曖昧なままストンといいところに着地したかもしれないけれど、今回希が笑っちゃうほど綺麗に状況を整理して、皆に突きつけちゃったからなあ。本人まったく悪気なく(苦笑
いや、個人的には女性間がこれだけ絆深く親密だと、ハーレムルートでもよかんべえと思っちゃうんですけどねえw
続刊は早々に四月の模様で。次はだれがメインに来るんだろう。