薔薇のマリア Ver5  つぼみのコロナ2 (角川スニーカー文庫)

【薔薇のマリア Ver5 つぼみのコロナ2】 十文字青/BUNBUN 角川スニーカー文庫

Amazon



最近の作者はいったいどうしたというんだろう。薔薇マリ本編の。ANGEL+DIVE。いつも心に剣を。今、十文字青という人はのりにのっているのか、書いて書いて書きまくってる。そのシリーズのことごとくで、愛が語られているのだ。それも情熱的に、包容するように。小指を絡ませるように。
ときに閉じられた夜から新しい世界へと飛び出す原動力として。ある時は、破滅へと誘う甘くも切ない罪過として。様々な形で愛と呼ばれる人の根源に連なる情動が、渾身のフルビートを以って叩きつけてくるのだ。
そして、今ここに一つの愛が成就する。
正直に言うと、この【つぼみのコロナ】の第二編を読み終えたときには唖然とした。こんな真っすぐで歪みなく素直に花開く恋愛譚を、この作者が描くとは思いもよらなかったのだ。確かに、読めばこの書き方は十文字青その人以外のなにものでもない、原色的な一心不乱の内面描写のオールナイトパレードそのままなのだけれど、その筆致で描かれていくのは、一生懸命に苦しい毎日を生き延びながら、大切になってしまった人を守ろうと、役に立とうと懸命にあがく少年少女の、きっと世界を見渡せばどこにでもある、でもだからこそ尊い姿。
レニィもコロナも、とても素直なんですよね。いじけたり悩んだり、目の前の嫌なものから逃げ出したり、それはこの作者の書くキャラクターの姿から逸脱したものじゃないんだけれど、とかく歪んだものがない。それぞれ、相手に対する想いに関しては、吃驚するくらいに偽らずに自分を騙さず、素直に受け止めている。
異常な、もしくは極端な繋がり方をしている他のカップリングと違って、この二人のそれはとてもナチュラルで純粋で、それゆえに見ていて安心できるものなんですよね。もしなんらかの形で片割れが喪われてしまったとしても、コロナなんか爆弾持ちですからね、遠からず命尽きることになるかもしれない。でも、その場合でも残された方は悲しみに打ちひしがれ膝折れることはあったとしても、その片割れの喪失によって魂をゆがませてしまうようなことはないように思えるのです。たとえその存在が消えてしまったとしても、想い出となって残された人を支え続けるような、そんな優しい繋がり方、お互いを守りたいという想いの正当な形。その人が好きだという感情の純朴な結実が、このレニィとコロナという少年少女の恋愛からは透けて見えてきたのでした。
こんな素朴で優しい恋愛を、この作者が書くとはねえ。
ずっと眠り続けていた二片のつぼみが、ふわりと花を咲かせる瞬間を目の当たりにしたような、どこか優しい気持ちにさせられる、心温かなお話でした。

この作者さんはねえ、ほんとにとてつもなく残酷でむごたらしい世界観を描きながら、そこにいる人たちの多くはびっくりするくらいの善性を、その根底に忍ばせてるんだよなあ。そのギャップにいつも酩酊させられるわけです。この酔わせ方がたまらんわけですけど。

書き下ろしの方で、思わぬ人物が再登場していて、読んでて思わず「おおっ!」と声を上げてしまいましたよ。本編での退場の仕方がずいぶん酷いものでしたから、あのあといったいどうなったんだろうと何気に気になっていたのですが、なんとか持ち直していたみたいで。以前よりもどこか柔らかい雰囲気も感じられましたし、今はけっこう幸せに過ごしているのかなあ、これ。
なんにせよ、良かったよかった。