とらドラ〈10!〉 (電撃文庫)

【とらドラ! 10】 竹宮ゆゆこ/ヤス 電撃文庫

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とらドラ完結である。

高須竜児、逢坂大河。櫛枝実乃梨。北村祐作。川嶋亜美。この五人の少年少女たちの物語を、私はどこか線香花火のように眺めていた。
若き日の、二度とは帰らぬ駆け抜けるような青春の日々。全力で駆け抜けるからこそ、もう戻れない時間。ふと立ち止まって振り返ったとき、郷愁とともに思い出す、遠い遠いいつかの昨日。
彼らの眩しい青春は、どこか儚く、切なく、一瞬の幻のように見えていたのだ。
彼らのお互いを想う気持ちの強さ。友情のアツさとは裏腹に、この五人にはどこか縁の薄さが透けて見えていた気がしたのだ。ずっと思っていた。この五人は、学生という社会の用意した共有空間を旅だった時、きっともう二度と、同じ時間と空間を過ごすことはないんだろうな、と。
学校を卒業しても、違う土地に暮らすようになっても、逢いさえすれば、再会すれば、昔と同じ空気で、雰囲気で、時間の隔ても空間の隔てもなかったように笑い合えることが出来る関係。そんな関係に、彼ら五人は縁がないように見えていた。一度離れてしまえば、距離の隔たりがそのまま心の隔たりになってしまうような、そんな関係に見えていた。
別れてしまえば、きっともう二度と逢うことはないんだろうな、と。たとえ逢うことがあっても、「久しぶりだね」「そうだね」「元気してた?」「うん、まあまあ」「……」「……」。こんな風な居心地の悪い沈黙、会話をするのに言葉を探してしまう戸惑い、ポツリポツリと現況を伝え合い、少し過去の思い出話に話題が転がり、共有できるのが過去だけだと実感して、寂しくも安堵をおぼえながら、そのまますれ違って行ってしまうような、そんな関係に見えていた。

彼らはとても、それぞれの事を大切に思っていた。お互いのためなら、全力で、全速力で走れた。とても一生懸命な恋だった。火花が散りそうな友情だった。
でも、ずっと思ってたのだ。彼らの想いは一方通行で、彼らは皆、自分以外を大切にするのに精一杯で、誰も自分に向かってくる想いに気づくことができず、受け止めることができず、その場に落とし続けていた。
彼らには想いはあっても、絆がなかった。
彼らの想いは、繋がってはいなかったのだ。

だから、彼らの想いは、思い出になってしまうんだと諦めていた。
ずっと、どこか物悲しい気持ちで、私はこの物語を眺めていたのだ。

でも。
だけど。

主人公の高須竜児は、作者たる竹宮ゆゆこは、そんな自分の巻数とともに積み重ねられていった諦観を、この最後の一冊にして、
ああもう、まいった。
こんなに見事にひっくり返されるとは思わなかったよ。

竜児は、最後の最後で踏み止まり、何一つ投げださない選択をした。大河を受け止めることで、みのりんやあみや北村たちも、やっちゃんも、みんな受け止めて見せたのだ。
唖然とした。呆然とした。彼の決断をきっかけに、一方通行だった想いの数々が、雪崩をうって繋がっていった。思いと思いが繋がって、絆が生まれていったのだ。
唐突で理不尽な別れの辛さは少年少女たちの心に深く刻まれて、それがどんなに悲しくて寂しいことなのか、彼らはシステムによって用意された必然の別離以前に、知ったのだ。

竜児と大河。二人の想いが通じ合うことで、絆が円となって繋がっていったのだ。
読み終えた後、私はこの作品にこんな味わい深い幸福感をもらえるとは思っていなかった。今はもう、彼らの未来に寂しさなどどこにも感じない。
彼らはきっと、この先何十年と過ぎようと、どれだけ住む土地が離れようと、逢えない時間が隔たろうと、逢えば再び今この瞬間と同じように笑い合えることが出来るんだろうと信じる事が出来る。学校を卒業しても、気軽に遊びに行けるような。結婚して子供が生まれても、それぞれの生活空間に気軽に踏み込んで行けるような、彼らはそんな関係を続けていくんだと、想いを馳せることができる。
その、なんと幸せなことだろう。

だから、ありがとう。
こんなハッピーエンドをありがとう。
とても、素晴らしい物語を読み終えたと、しみじみ思う。
ありがとう。

とらどら! 完結である。