C3‐シーキューブ〈6〉 (電撃文庫)

【C3 シーキューブ 6】 水瀬葉月/さそりがため 電撃文庫

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フィアは最初期こそ不安定だったけれど、昨今のブレのない健やかな精神性の成長には目を見張るものがあるなあ。
後半の展開なんかあれ、フィア的には大ショックのはずなんですよ。自分が与えられ、受け取ったものを別の誰かに返すという純粋な好意、善意の行使を一番ひどい形で、後ろ足で砂を引っ掻けるように裏切られたのですから。
ヘコんだり落ち込んだりするどころじゃない。下手をすれば自分の今までの在り様に疑問を抱いてしまったり、心挫けてしまってもおかしくない事態だったはずなのです。
でもこの娘、ブレないんですよね。ザックリ傷ついたはずなのに、負の感情を滾らせることもなく、すぐさま立ち上がり、自分とはまた別の形で今までの自分に裏切られ、心へし折られて立てずにいる人に向かって手を差し伸べるのですから、フィアの得た【強さ】のなんと清々しいことか。
この娘は、もう前回の自身に科した拷問のように肉体的に傷つくことだけでなく、精神的に傷つくことにも耐えれるようになったんですねえ。
拭い切れぬ罪過を背負いながら、この娘はもう真っ直ぐ進めるんだなあ。

ここで興味深いのが戦えない主人公こと夜知春亮なんですよね。この春亮って、面白い事にほんとに部外者なんですよ。これまで襲ってきた連中って、基本的にみんな呪いの道具であるフィアたちが目当て。奪うにしろ壊すにしろ戦うにしろ、目的はみな彼女たちにあるわけです。一応、春亮は彼女らの所有者、ということになるんですけど、フィアたちってみんな道具である以前に一人の人間として立脚しているので、敵さんもだいたいアプローチは直接彼女たちに行ってる。
戦えない上に、当事者ですらない。彼が当事者であるのは、もしかしたらいいんちょさんのストーカーに、狙われつつあることくらいなんじゃないだろうかな。
でも、だからといって春亮に存在感がないのか、というと、これがとんでもない。同じく個人的には一切戦闘力がなく、ヒロインに戦闘を預けてしまっている主人公ってのはけっこういると思いますけど、春亮の存在感の重さはちょっと頭一つ抜けてるんじゃないかというくらいに、ズシンと重い。
彼の在り様ってのは、完璧なまでに庇護者のそれなんですよね。生まれながらに罪を背負い、その重さに押し潰されそうになりながら、道に迷い、心壊れていく道を宿命づけられている呪いの道具たち。その彼ら彼女らの未来に希望の光を差し込ませ、自分の足で立って進む道を指し示す存在が、春亮なのです。
今回も、読んでると感心してしまうくらいに、細かくフィアの精神面のサポートやフォローをしてるんですよ、この野郎。これほど、ヒロインたちの支えになってる主人公と言うのも珍しい。しかも、その支えというのが春亮への依存にはなってないんですよね。春亮ってへたり込んでる子には手を差し伸べて立たせてあげても、そこから手を引っ張って導くようなことはあんまりしてないんですよね。変な方向に行きそうだったり、また座り込んでしまいそうになったら必死に助けたりしてくれるんだけど、基本的に後ろから見守ってる感じ。彼の周りにいるヒロインたちは、誰も春亮に寄りかかることなく、一人で立ってるんですよ。
その上で、彼を好きだと想ってる。
だからなんでしょうか、春亮は庇護者としてのスタンスであるんだけれど、ヒロインたちとの関係性はどこまでも対等だったりする。でも、彼女らが心まっすぐに戦えるのは、生きれるのは彼が居たからこそ。ゆえに、どんな場面でも彼の存在はとてつもなく重きを以って存在感を示してるねすよね。不思議と戦闘シーンでも、春亮ってあんまり邪魔とか役立たずとか読んでて思ったことがないあたり、上手いこと書いてるなあ、と。

でも恋愛パートは、何気に均衡状態が出来ちゃってるなあ(笑
誰かが突出するとすぐに協力して、叩き潰されそう。