聖剣の刀鍛冶5 (MF文庫J)

【聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) 5.Sacrifice】 三浦勇雄/屡那 MF文庫J

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し、しまった。完全に油断していた。軍国から戻っての束の間の平和の短編集なんて話だそうだから、てっきりのんびり気を抜いて読める話かと弛緩して読み始めたら……とんでもないとんでもない!
実際に剣を合わせて戦うような場面こそないものの、人間関係のせめぎ合いといい、セシリーに秘められた謎の真相といい、まさしく激動の巻じゃないですか。
不意打ち食らったんで、けっこうクラクラ。

今まで、態度や反応からセシリーへのルークへの気持ちというのはある程度推察できていたとはいえ、ここまで明確に彼の内心を露わにしたのは初めてだったんじゃなかったかな。正直、驚いた。
かなり意識してるのは分かってたし、セシリーという人間そのものに一目置いている気配は感じていたわけだけど……ルークがそこまでセシリーに対して想い入れてるとは、予想していなかった。していなかっただけに、ガツンときたね。そりゃあ、彼女が黒騎士野郎に甚振られたのを知って、怒り狂うのも無理ないわ。というか、あれがきっかけだったのね。
騎士として見込み、人間として敬し、なによりただの女として心奪われる。惚れ方としては、全力全開じゃないんですか、こりゃあ。
しかも、聖剣の鞘という隠語で秘されてきたセシリーの血に負わされてきた宿命を知ってしまった以上、彼が聖剣を打つという意味には凄まじいまでの重さが課せられてしまったわけで。重い、これは重い。絶対に失敗できない。単に、セシリーという女を見込んで、自分の過去から未来の全部を載せて託す、というこれまでの意味合いだけでは済まなくなってしまったんだから。
そんな状況で、その当該者である女から、事情を、真相をすべて知った上で、あんなこと言われたら、男としたら頭がどうかしちゃうんじゃないだろうか。もう、奮い立つどころじゃないですよ、ありゃあ。
あの瞬間は、もう自分に出来ない事はないとすら思えるような全能感に支配されたと言っても過言ではないような。
だからこその、あの所業だったんでしょうけど。いやいや、もしルークが自分の宿命を受け入れ、覚悟を決めてなかったら、あそこでそのままセリシー襲ってもおかしくなかったような(笑

そのルークの宿命なわけですけど、自分は単に失明だけかと思ってたんで、ルークが覚悟しているその先があることが、けっこうショックだったり。そこまで深刻だったのか、と。
成さねばならないことがあり、成したいことがある。惚れた女を救うため。そのために、命を削る。
だったら、この男の性格からして、自分の想いを告げるなんてことは絶対しないんだろうなあ。あとでセシリーがどれだけ傷つくかを、わかってないのか、わかっていて無視しているのか。どちらにせよ、傲慢であることには変わりなく、ただ今の彼の置かれた状況からすればその傲慢たることはひどく正しいことなんですよね。後の事を気にするには、まず現在を乗り越えないといけない。現在を乗り越えるためには、未来を捨てなければならない。既に、もう未来に辿りつけないと分かっている身としては、真実を告げることは害悪にしかならないわけだし。彼女が傷つくのが今か、あとかの違いだけとも言えるし。今、彼女が傷つけば乗り越えられるものも乗り越えられなくなるしねえ。
でも、やっぱりその覚悟はセシリーには酷いと思うよなあ。だからこそ、リサの存在がここで重きをなしてくるんだろうけど。
ほんと、なんとかしてくれ。

本番に至るまでの前振り、という今回だったわけですけど、いやもう面白すぎる。面白すぎて、心高鳴りすぎる。手に汗握るドキドキとワクワク。
前振りでこれなら、本番はいったいどうなってしまうのかと、今から怖いくらいだ。